火力発電のメリットとは?デメリットや仕組みと今後の動向を解説
火力発電は、発電効率も高く、日本で使用される電力の多くを発電している方法です。
しかし、CO2排出量も多く、カーボンニュートラルが求められる現代において、今後の動向に注目している方も多くいます。
まずは、火力発電の仕組みやメリット・デメリットについて理解していきましょう。
火力発電とは
火力発電の仕組みについて、使用される燃料や、電力供給に占める割合を含め解説していきます。
火力発電の仕組み
火力発電は、燃料を燃やしてお湯を沸騰させ、沸騰した蒸気の力で蒸気タービンを回転させて電力を発生させる仕組みです。
家庭のコンロを使ってお湯を沸騰させる場合、やかんの口が小さいやかんほど、飛び出す湯気の勢いは強くなります。
火力発電では、この飛び出した湯気の力を利用して風車を回す仕組みです。
火力発電で使用される燃料
火力発電で使用される主な燃料は、LNG・石炭・石油の3種類です。
LNG | 石炭 | 石油 | |
特徴 | 気体の天然ガスを-160℃に冷却した液化天然ガス 火力発電でCO2排出量が最も少ない |
設備コストは高いが発電コストは低い 安定的な発電可能 |
貯蔵や運搬が簡単だが燃料費が高く発電コストが高い 発電所を停めたり稼働したりしやすい |
活用 | ミドル電源 | ベースロード電源 | ピーク電源 |
コスト | 〇 | ◎ | △ |
環境性 | ◎ | △ | 〇 |
火力発電の電力供給に占める割合
特定非営利活動法人「isep」環境エネルギー政策研究所は、2022年(暦年)の自然エネルギー電力の割合を推計し、化石燃料による火力発電が発電する年間の電力量の割合は72.4%であったことを公表しました。
これは、前年の71.7%から0.7%増加しています。
また、価格が高騰したこともあり、LNGは29.9%と前年の31.7%から1.8%減少しましたが、石炭においては前年の26.5%から27.8%に1.3%増加している現状です。
このように、日本において火力発電は全体の7~8割の電力供給率を占めています。
火力発電のメリット
火力発電のメリットは、以下4つです。
- 水力発電に次いでエネルギー変換効率が高い
- 電力需要に合わせて出力が微調整できる
- 広い土地がなくても発電所が建設できる
- 事故発生時でも比較的被害が広がりにくい
水力発電に次いでエネルギー変換効率が高い
発電方法 | 変換効率または発電効率 |
水力 | 約80% |
火力 | 約35~55% |
風力 | 約30〜40% |
原子力 | 約33% |
太陽光 | 約20% |
地熱 | 約20% |
バイオマス | 約20% |
火力発電は、水力発電に次いでエネルギー変換効率の高い発電方法です。
エネルギーをどれだけ電力に効率よく変えられるかを示す「エネルギー効率」は、水力発電の80%には及ばないものの、55%程度と原子力発電や、風力発電などを上回っています。
電力需要に合わせて出力が微調整できる
電力需要に合わせて電気の出力を調整しやすいことも、火力発電のメリットです。
電気は真夏や真冬にエアコンなどが多く使用されるため、需要が大きくなるなど、季節により使用量が大きく変動します。
そんな時に必要な時だけ必要な分の電力を供給できる火力発電は、電気の損失を減らすことが可能です。必要な時に電力が足りないといった事態も避けられます。
風力発電や太陽光発電といった自然頼みの発電方法の場合、天候次第で発電量が大きく変わるため、すぐに電気量を増やすことは不可能です。
精密機器や電化製品など様々なものに電気が使用されている現代において、電気が不足しないことは非常に重要なポイントです。
火力発電は出力抑制の優先順位が高い
太陽光の発電量が多い春秋の昼間には、空調設備の稼働も少なく、供給が需要を上回ってしまう可能性があります。需給のバランスが崩れると、電気系統設備に不具合が生じたり、大規模停電が起こったりすることも。
そのような時には出力抑制(出力制御)を行い、電気の供給量を減らさなければなりません。火力発電は発電量を調整しやすい特徴があるため、出力制御の優先順位が高くなっています。
広い土地がなくても発電所が建設できる
火力発電はさまざまな種類の発電方式があり、小規模な設備でも電気を供給できるため、広い土地がなくても、火力発電所を建設できます。
地熱発電では、発電効率を良くするために火山の近くなどに発電所を設置する必要があったり、水力発電では、発電に必要な水を貯蔵したり流したりする河川やダムが必要であったりと設置する場所にある程度制限があります。
その点、設置場所に縛られない火力発電は、ある程度の敷地があれば建設できるため、建設難易度も低いです。
事故発生時でも比較的被害が広がりにくい
火力発電では、事故発生時でも比較的被害が広がりにくいことも特徴の1つです。
例えば、原子力発電所で事故が起きた場合には、有害な放射能が発生し長期間に及んで人体や自然環境に重大な影響が生じます。
その一方で、火力発電であれば事故が発生した場合でも、放射性物質は生成されません。
そのため、事故が発生したとしても被害が広がりにくいです。
放射性物質のような、管理の仕方によって危険に繋がる燃料を使わない点で、火力発電は比較的安全な発電方法といえます。
火力発電の課題・デメリット
火力発電のデメリットは、以下3つです。
- 海外から燃料を輸入しなければならない
- 燃料資源に限りがある
- CO2を大量に排出する
海外から燃料を輸入しなければならない
火力発電の燃料として利用される化石燃料そのものが有限であり、日本では必要な化石燃料を輸入に頼っています。
資源エネルギー庁が公開している情報では、2019年度の原油海外依存度は99.7%であり、LNG海外依存度は97.7%、石炭海外依存度は99.5%と公表されています。
つまり、ほぼ100%に近い割合が海外からの輸入です。
そのため、国際情勢の変化で化石燃料が値上がりし、それに伴い電気料金が高くなる可能性が高いです。
国として燃料の調達先を複数の国に分散するなど、想定外の事態に備え準備しておく必要があります。
燃料資源に限りがある
上記で少し解説しましたが、燃料となるLNGや石炭、石油自体が枯渇してしまう可能性もあります。
一般社団法人日本原子力文化財団の発表では、LNGは約59年、石炭は約118年、石油は約46年で枯渇してしまう推測です。
電気は現代にとって欠かせない存在であり、その需要は今後も増え続けることが予想されるため、少しでも早いうちに火力発電以外の発電方法を検討することは必須でしょう。
CO2を大量に排出する
火力発電は、発電する際に地球温暖化の原因であるCO2を大量に排出します。
環境問題が深刻化する現代において、CO2排出量を減らすことは、日本に限らず世界共通で重要な課題になっています。
2015年に開催されたパリ協定の目標では、2050年になるまでに地球の気温上昇を2度より下に抑えることが目標です。
この協定にはCO2の最大排出国である中国やアメリカを含め、およそ200か国が出席し、それぞれの国がCO2の排出量を減らすために取り組むことになりました。
日本も協定に出席し、CO2の排出量が減らすことをいわれています。
国内で排出されているCO2のうち、約40%は発電由来であり、目標を達成するには、火力発電におけるCO2排出量を減らすことが大きなポイントです。
火力発電の今後について
火力発電は今後どうなっていくのか解説します。
政府は火力発電の割合引き下げを決定
前述したように火力発電では、特に石炭を燃料とした火力発電を中心に、多くのCO2を排出すると問題があり、2050年までに掲げられているカーボンニュートラルにおいては、火力発電で発生するCO2排出量を実質ゼロにする必要があります。
そのため、第6次エネルギー基本計画において、電力を発電する方法、「電源」の構成のうち、約32%を占めている石炭による火力発電の割合を、2030年度までに約19%まで削減することが公表されています。その代わりに再生可能エネルギーの導入を拡大する計画です。
しかし、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギー発電は、天候などの自然条件の影響を受けて発電量が増減してしまうため、それだけでは日本のエネルギーを支えることはできません。火力発電は発電量を安定させ、電力を供給するバランスを調整するなど、今後も非常に重要な役割を果たすでしょう。
アンモニアを燃料とする新技術の実験も進行中
新しい燃料として、アンモニアが注目されています。
新しい燃料としてアンモニアが注目されている理由の一つとして、次世代エネルギーといわれる水素の「キャリア」、つまり輸送媒体で活用できる可能性があるからです。
アンモニアは水素分子を含む物質であり、大量輸送が難しいといわれる水素を、輸送技術が確立されているアンモニアに変えてから輸送し、使う場所でアンモニアを水素に戻すという手法が現在研究されています。
さらに、近年では燃料としての使う方法も研究されています。
アンモニアは、燃焼時にCO2を排出しない「カーボンフリー」の物質です。
そのため、これから先はアンモニアのみをエネルギー源として使用する発電を考えた技術開発が行われていますが、現在の石炭での火力発電にアンモニアを混ぜて燃やす方法でも、CO2排出量を削減できます。
実際の動きでは、中部電力と東京電力グループの合弁会社であるJERAでは、アンモニア混燃方式をいち早く導入し、2024年までに愛知県碧南市にある碧南火力発電所で、アンモニア20%の混燃の実証を目指すと公表しています。
現時点でアンモニア混焼火力発電は、実験室程度であれば十分に高効率な発電ができると分かっています、これからは商用レベルへの拡大に向け期待が高いです。
大手電力会社ではバイオマス燃料を利用する試みも
大手電力会社ではバイオマス燃料を利用する試みも見られます。
バイオマス発電とは、植物または動物のような生物から獲得できる資源であるバイオマスを使用して発電することです。
バイオマスには、トウモロコシやサトウキビなどの作物や、魚油や動物油脂などの動物由来の資源など、豊富な種類の原料がありますが、現時点では主に樹木類や廃棄物がバイオマス発電で使用されています。
しかし、他のバイオマス資源においても、今後発電で利用されることが考えられます。
COP28で日本は4年連続化石賞を受賞
2023年12月3日、国連の気候変動会議「COP28」で、日本は「化石賞」を受賞しました。化石賞の受賞は4年連続となっており、不名誉な結果であると言えます。
化石賞とは、世界130ヵ国・1,800超のNGO団体がつくるグループ「気候変動ネットワーク」が贈っている賞です。COPの期間中毎日、気候変動対策に消極的だと判断した国を選んでいます。
この受賞は、日本が「温室効果ガスの排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所の新規建設は行わない」「火力発電の化石燃料をアンモニアに転換して排出削減を進める」と表明したのが原因です。
二酸化炭素の排出量が多い石炭火力発電から脱するべきという潮流のなかで、既存の石炭火力を延命し、再生可能エネルギーへの移行を遅らせていると批判されました。
火力発電の燃料をバイオマス・アンモニア・水素などに切り替えていくことは、脱炭素を促進することはできますが、先進国としてそれだけでは足りないと判断されたということでしょう。
今後は、日本の脱炭素政策をさらに具体的・積極的なものにし、その効果を世界に発信していくことが重要です。
ちなみに、COP28開催中の化石賞受賞国は、以下の通りです。
- 日本
- ニュージーランド
- アメリカ
- ブラジル
- ロシア
- カナダ
- ノルウェー
- 韓国
- イスラエル
- オーストラリア
- EU
- ベトナム
- サウジアラビア
- コロンビア
火力発電に関するよくある質問
火力発電について考える際に、気になる点についてまとめました。
他の国で火力発電が占める割合は?
以下のグラフは主要国の発電電力量に占める割合を発電方法ごとに表したものです。日本の電源構成において、火力発電が占める割合は先進国の中では多い方だと言えます。
アメリカと中国では火力発電の割合が高くなっています。これは、国内でシェールガスや石炭が産出され、安く発電できるためです。
反対に、ヨーロッパ諸国やカナダでは、再生可能エネルギーや水力の発電割合が多くなっており、二酸化炭素の排出量削減を進めています。
火力発電の種類と方法は?
火力発電には主に、「汽力発電」「ガスタービン発電」「コンバインドサイクル発電」の3つの発電方法があります。全て燃料を燃やしてタービンを回すという点では同じ仕組みですが、それぞれ特徴があります。
- 汽力発電:ボイラーでお湯を沸かし、高温・高圧の蒸気でタービンを回す。最も一般的。
- ガスタービン発電:灯油やLNGなどを燃やした際に出る燃焼ガスでタービンを回す。小さな機械でも高出力。
- コンバインドサイクル発電:汽力発電とガスタービン発電を組み合わせた方法。燃焼ガスアの膨張力でガスタービンを回し、排ガスの余熱でお湯を沸かして蒸気タービンを回す。仕組みが複雑だが、最も効率が良くCO2排出量も少ない。
火力発電で排出されたCO2を回収するCCS/CCUSとは?
CCSとCCUSは、排出されたCO2を回収して削減する技術です。
排出されるCO2を削減できれば、火力発電のメリットを活かして発電を続けながら、カーボンニュートラルの達成を目指すことができます。
CCSとは、二酸化炭素を分離・回収、地層に封じ込めて貯留し、二酸化炭素を削減する方法です。
CCUSは、回収した二酸化炭素を有効利用する方法です。油田の油層に圧力をかけて原油を採掘しやすくしたり、ドライアイスの原料として利用したりします。
経済産業省が令和4年5月にとりまとめた「CCS長期ロードマップ」では、2050年時点で二酸化炭素の貯留量を年間1.2億t~2.4億tとすることを想定し、2026年までに最終投資決定を行い、2030年までにCCS事業開始に向けて事業環境整備を行うとしています。(参考:CCS長期ロードマップ検討会中間とりまとめ 経済産業省)
カーボンニュートラルに向けて個人ができる取り組みは?
カーボンニュートラル達成のために、個人では以下のような取り組みができます。
- 電気料金プランを再生可能エネルギー由来の電気が使えるプランにする
- 家庭用太陽光発電設備を導入する
- 省エネ性能の高い家電を使う
- 環境ラベルが表示された環境に優しい製品を選ぶ
- 電気の使用を需要が少ない時間帯に移動するピークシフトを行う
電気料金プランを変えたり、太陽光発電設備を導入したりすれば、家庭でCO2排出量ゼロの電気を使うことができます。省エネ性能の高い家電を選べば、さらに節電できるでしょう。
また、カーボンオフセット認証ラベル・カーボンニュートラルラベル・グリーンエネルギーマークなどの環境ラベルが表示された製品を選ぶことで、製品の生産時のCO2削減を促進することが可能です。
さらに、電気の使用をピークシフトすると、火力発電の発電量を抑えることができます。具体的には、夏の昼間(13~16時頃)と、冬の朝夕(8~10時・17~19時頃)が需要のピークです。家事の時間をずらしたり、外出したりして、電気の使用時間をシフトすることで、CO2の排出量の削減に繋がります。
火力発電所の割合を削減して電力の安定供給はできる?
前述のとおり、火力発電は電力需要のピーク時に発電量を増やし、安定供給を支えています。
しかし近年、発電設備の老朽化やCO2排出量削減を促進するため、火力発電所の休廃止が相次いでいます。特に、石炭火力は、現在約32%占めていますが、2030年度には19%程度にまで減少させると計画されています。
しかし、発電所が減ってしまうだけでは、エネルギーの安定供給を保つことはできません。CO2を排出しない燃料であるアンモニアや水素を活用した火力発電や、安全性を確保した
まとめ
火力発電は、燃料を燃やしてお湯を沸騰させ、蒸気の力で蒸気タービンを回転し電力を発生する仕組みの発電方法です。
燃料には、主にLNGや石炭、石油が使用されています。
火力発電には、安定して電力供給ができたり、事故発生時に被害が少なかったりといったメリットもありますが、発電におけるCO2排出量が多いといったデメリットも存在します。
年々深刻化する環境問題から、火力発電の割合を減少させることが求められているため、メリット・デメリットを含め、十分に理解することが大切です。
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