太陽光発電での収入はインボイス制度の対象?納税関係で損をしないために確認しよう
- 公開日:2024.12.04
- 更新日:2024.12.13
2023年10月から始まったインボイス制度は、太陽光発電を行い電気を売っている方に影響はあるのでしょうか。
インボイス制度によって、消費税の仕入税額控除が適格請求書(インボイス)によって行われるようになりました。
太陽光発電投資を行う方の中でも、サラリーマンなどの免税事業者は、インボイスを発行できないので、売電収入の消費税を受け取れるのか不安を持つかもしれません。
結論から言うと、インボイス制度の影響で売電収入が減ることはありません。
この記事では、インボイス制度に関する詳細や太陽光発電との関係性、また太陽光発電事業者が受ける影響やとるべき対応について詳しく解説していきます。
太陽光発電はインボイス制度の影響をあまり受けない
太陽光発電の収入に、インボイス制度が与える影響はありません。
消費税を払う必要がない「免税事業者」であれば、インボイスの登録は不要です。ただし、消費税を払う必要がある「課税事業者」は、太陽光発電の売電収入に関わらずインボイスの登録をする必要があります。
太陽光発電売却時の消費税を受け取れない?
インボイス開始後に課税事業者が免税事業者と取引を行う際、免税事業者が発行する請求書では仕入税額控除ができなくなる(ただし開始6年間は一定割合で控除可能)というリスクがあります。そのため課税事業者は免税事業者と取引を続けるとしても、「消費税分だけ値引きする」と言われる可能性があります。
この場合に免税事業者が取れる選択肢は、多くの場合次の3つに限られます。
- 消費税分の負担が増えることを覚悟して、適格請求書発行事業者になる
- 素直に減額の条件を受け入れ、免税事業者として取引を続ける
- 減額は受け入れられないと表明し、従来通りの金額での支払いを求める
インボイス制度に参加したくない場合は2、3番目どちらかの選択肢を選ぶことになりますが、どちらを選んでもデメリットがあります。
減額を素直に受け入れることで取引は継続できますが、消費税分が受け取れなくなるため売上が減ります。だからといって消費税を含めた金額の支払いを求めると、取引が打ち切られて売上がなくなるかもしれません。
このような事態が、太陽光発電事業者と電力会社の関係においても発生する可能性があります。現状では売電ができなくなり売上がゼロになるリスクこそ小さいものの、制度の変更によって売却時に消費税分が受け取れなくなる可能性があります。
インボイス制度とは
インボイス制度とは、請求書の方式を「適格請求書等保存方式」に変える制度のことです。
現在は、商品やサービス等の売り手が買い手に対して請求書を発行する場合「区分記載請求書」という形式で発行しています。消費税には軽減税率という仕組みがあり、8%・10%どちらかの消費税率が適用されるからです。
しかしインボイス制度が開始される2023年10月からは「適格請求書」という新しい形態の請求書が使用されることになります。しかも適格請求書は誰でも発行できるものではなく、税務署を通して「適格請求書発行事業者」に登録する必要があります。
課税事業者と免税事業者の違い
重要度は、事業者ごとに異なります。現状では、年間の売上(前々年度の課税対象額)によって消費税の課税対象となるかどうかが決まります。
- 売上が1,000万円超:「課税事業者」として消費税の申告・納税が必須
- 売上が1,000万円以下:「免税事業者」として消費税の申告・納税が免除
この免税のしくみ自体は変わりません。前々年度の課税対象額が1,000万円以下の事業者は、引き続き消費税の免税を受け続けることができます。しかし、免税事業者も適格請求書発行事業者として登録した方が得になるケースもあります。
なぜかというと、免税事業者から発行される従来の請求書では「仕入税額控除」が適用できなくなるからです。適格請求書を発行できない免税事業者との取引においては仕入額に対する税額控除が適用できないため、必然的に買い手の税負担が増えてしまうのです。
この「税負担が増加すること」は買い手側にとって単純にデメリットであるため、免税事業者との取引を敬遠する動きが強まる可能性が高いです。結果的に、消費税分の単価を下げられたことで売上が下がったり、「今後は免税事業者との取引を避けたい」という理由で取引が停止される可能性もゼロではありません。
そのような事態を避けたいなら、売上が少ない個人事業主などの免税事業者であっても適格請求書発行事業者になるための申請を行い、買い手が仕入税額控除を適用できるように準備を整えておく必要があるのです。
ただし登録により「消費税の課税義務」も発生するため、免税事業者は負担が増えることになります。
FIT制度と消費税の関係
FIT制度とは、再生可能エネルギーに分類される太陽光発電等により作られた電気を、特定の期間中は電力会社が高額で買い取ることを保証してくれるしくみです。太陽光発電はパネルの設置等で多額の初期コストが発生しますが、このFIT制度によって家庭や事業者はリスクヘッジが可能となっています。
現在の制度では、売り手が課税事業者・免税事業者どちらでも、電力を買い取る電力会社による仕入税額控除が可能となっています。ただしインボイス制度が開始されると、電力会社が仕入税額控除を行うためには売り手が適格請求書発行事業者に登録する必要があります。
現時点では、FIT認定を受けている発電事業者が課税事業者である場合、インボイス制度が開始するまでに適格請求書発行事業者となることは必須となっています。2022年12月には、FITの新規認定を受ける際にも「インボイス発行事業者として登録を行うこと」が認定要件であると示されました。
では免税事業者はどうなるのかというと、現時点では適格請求書発行事業者になることは必須条件ではなく、今までと同様に消費税を含めた金額が調達価格となります。
インボイス制度導入によって何が変わる?
インボイス制度が開始すると何が変わるのか、具体的に解説します。
消費税額の証明に「適格請求書」が必要になる
2023年10月以降は消費税額を証明するために「適格請求書」が必須となります。従来の請求書とどのように違うのか理解するために、従来の区分記載請求における記載事項を見てみましょう。
- 発行者(事業者)の氏名・事業者名
- 買い手側の氏名・事業者名
- 取引を行った正確な日付
- 取引の詳細内容
- 取引を税率(8%・10%)ごとに分けて合算した金額
この方式での請求書に法的な問題があったわけではありません。ただしこの形式で良かったのは、あくまで軽減税率導入に伴う経過措置期間であったためです。実際に、軽減税率が適用されるものとそうでないもの、それぞれにかかる消費税に関して明確な区分がなされていませんでした。
しかし経過措置期間が終了し、インボイス制度が開始される2023年10月からは課税額を正確に計算する必要があります。新方式に対応した「適格請求書」において、従来の事項に加えて次の項目の記載が必須となっています。
- 請求書発行者の氏名および登録番号
- 税率ごとに分けて記載された消費税(適用税率)
従来は一律の消費税のみ記載すれば良かったのですが、インボイス開始後は登録番号に加えて税率ごとの金額も記載する必要が発生します。もし、適格請求書発行事業者でない人が税率ごとに金額を分けた請求書を発行しても、買い手は仕入税額控除を適用することができません。
免税事業者は適格請求書を発行できない
前々年度の課税対象額が1,000万円以下である免税事業者は登録番号を記載できず、適格請求書も発行できません。免税事業者が適格請求書を発行するためには、税務署に適格請求書発行事業者への登録申請を期限内(現時点では2023年9月30日まで)に行う必要があります。
これを聞くと「全ての免税事業者は登録しなければいけないのでは?」と誤解してしまうこともありますが、それは間違いです。以下に当てはまる事業者は、基本的に免税事業者から変わる必要はありません。
- 主な取引相手が消費者(BtoC)である
- 免税事業者のままでも支払われる金額が変更されない
まず小売店や飲食店など、主要な買い手が消費者である場合はあえて登録する必要はありません。消費者が支払う消費税は間接税であり、実際に納税しているのは事業者だからです。
また、免税事業者として取引を続けることを買い手が了承している場合も事業者登録は必要ないかもしれませんが、経過措置期間が終了してからもその関係を継続できるとは限りません。
ちなみに買い手は請求書に記載された登録番号の検索によって事業者情報の照会も可能であるため、免税事業者のまま適当な番号を請求書に記載してやり過ごすようなやり方は通用しません。
インボイス制度で損をしないための対応方法
インボイス制度が開始すると、損する可能性はあるのでしょうか。対策について解説します。
太陽光発電事業の免税事業者は簡易課税制度を利用する
太陽光発電を行っている免税事業者は、以下の条件を満たすことで「簡易課税」が可能となります。
- 前々年度の課税対象売上が5,000万円以下である
- 事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出している
簡易課税とは上記の条件を満たす場合のみ「消費税の計算方法を変えられる」制度であり、受け取った消費税に対して「みなし仕入率」という一定の割合を差し引いて納税額を計算します。業種ごとに異なるみなし仕入率に関しては、次の表をご覧ください。
事業区分 | 該当事業者 | みなし仕入率 |
第1種 | 卸売業 | 90% |
第2種 | 小売業 | 80% |
第3種 | 農業・林業・漁業 | 70% |
第4種 | 飲食業等 | 60% |
第5種 | 金融・保険・サービス業等 | 50% |
第6種 | 不動産業 | 40% |
この計算方法では「取引ごとの消費税」を計算しないため計算方法がシンプルできるうえに、インボイス制度により納税額が増えるという影響を最小限に抑えられます。
ただし2022年12月に公表されたインボイス制度の見直しにより、免税事業者が適格請求書発行事業者となり納税者となっても「開始2年間は2割の消費税負担で良い」ことになりました。この特例措置により、みなし仕入率が90%である卸売業以外の事業者は、簡易課税を選択した方が税負担が増えてしまいます。
太陽光発電事業者は簡易課税と特例による減税のどちらを選択するか、それぞれのメリットとデメリットを考慮したうえで決めましょう。
インボイス制度と太陽光発電に関するFAQ
最後に、太陽光発電発電事業者から寄せられやすいインボイス制度による影響への質問について回答していきます。
インボイス制度によって電気が売れなくなる?
インボイス制度が開始しても、大手電力会社や新電力に電気が売れなくなることはありません。FIT制度の変更はなく、卒FIT後の売電にも変更はありません。免税事業者の方は、インボイス登録も不要です。
ただし、課税事業者の方はインボイスの登録を行う必要があります。
インボイス制度によって電気の売上は減る?
インボイス制度によって電気の売り上げが減ることはありません。
資源エネルギー庁の「インボイス制度の導入に伴う FIT制度上の対応について」には、免税事業者はインボイスの登録がなくとも現⾏の買取価格が変更されることがないと明記されています。
消費税分売電収入が減るといった心配は不要です。
免税事業者のままでいても大丈夫?
売り上げ1千万円以下の小規模事業者や個人事業主の場合、免税事業者のままでいても大丈夫です。
課税事業者である取引先との機会を損失したくない場合には、適格請求書事業者手続きをおこなった方が良いでしょう。
しかし、1千万円以上の売り上げがない場合、登録を行わず免税事業者のままでいた方が、消費税納税の義務が発生しないというメリットがあります。
まとめ
インボイス制度によって消費税の取扱が変わっています。課税事業者の場合は、インボイス発行事業者の登録手続きを行い、売電先の電力会社に登録番号の報告が必要です。
しかし、課税売上高が1千万円以下の免税事業者や、家庭用太陽光発電で売電を行っている個人では、インボイス発行事業者の登録は不要です。登録しないことで、売電収入が減ることはありません。
ただし、免税事業者が課税事業者が太陽光発電設備を売却する際、消費税分の割引を交渉される可能性はあります。
また、太陽光発電設備を購入する際に、消費税還付を受けたい場合は、インボイス発行事業者の登録を行い、課税事業者になる必要があります。
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インボイス制度の導入による影響は、太陽光発電事業に関わらず不確定要素が大きいです。
しかし、少なからず取引高に影響を与える可能性はあります。
そのため、事前にインボイス制度をよく理解しておき、今後の意思決定のために準備をしておくことが大切です。
免税事業者の方は取引先にコンタクトを取り、今後の予定や希望を聞き出しておくのも良いかもしれません。
公認会計士・税理士
アカウントエージェント株式会社 代表取締役
藤沼会計事務所 代表社員
前職では再生可能エネルギーに係るプロジェクトファイナンスの財務アドバイザリー業務に従事。現在は会計・税務に関する幅広いアドバイザリーサービスを提供している。
この記事を書いた人
ikebukuro