仮想発電所(VPP)の仕組みをわかりやすく言うと?メリット・デメリットや取り組みを解説
- 公開日:2024.12.04
- 更新日:2024.12.04
近年では、クリーンな再生可能エネルギーの導入が加速している中、仮想発電所(VPP)も注目を集めています。
仮想発電所(VPP)とは、点在する小規模の太陽光発電や蓄電池をネットワークでつなぎ、一つの大規模発電所と同じように利用する仕組みです。
それぞれの発電設備の発電量・蓄電量は小さくても、まとめて制御することで、電力の受給バランス調整が可能になります。
この記事では、仮想発電所(VPP)の仕組みや、さまざまなメリットと課題、日本企業の取り組みについてわかりやすく解説していきます。
仮想発電所(VPP)とは
VPPとは、バーチャルパワープラントの英語の頭文字を取った略称であり、仮想発電所のことです。
発電所は電気を発電するための設備ですが、水力発電所や火力発電所のような実体を持っておらず、あくまで仮想の存在という点がVPPの特徴です。
一般的に、会社や家庭で私たちが使っている電気は、水力発電所や火力発電所など、大きな規模で設備を所有している発電所により発電され、変電所や送電所を通して送られる仕組みになっています。
近年では、地球環境への意識が高まったり、世界的にカーボンニュートラルを目指したりといった流れにより、風力発電や太陽光発電のような再生可能エネルギーを利用した発電が増えています。
もちろん、再生エネルギーは化石燃料を使わないため、地球環境に優しいメリットが存在しますが、再生可能エネルギーを利用した発電の多くが気温や天候といった、自然による影響が大きいため、日により発電できる量が変わってしまうことがデメリットです。
仮想発電所(VPP)の仕組みをわかりやすく言うと
仮想発電所(VPP)は、点在している太陽光発電および蓄電池をネットワークで繋ぐことにより、一つの発電所と同じように利用する仕組みです。
再生可能エネルギーを利用した電気を需給するバランスを維持するために、電気を使用する側の機器の制御を行います。
VPP取引が広まった背景
VPP取引が広まった理由には以下のようなものがあります。
- 「バーチャルパワープラント構築実証事業」の実施
- 発電・蓄電設備を設置する家庭・企業の増加
- IoTの技術革新
資源エネルギー庁では、令和2年度に「バーチャルパワープラント構築実証事業」を行い、プロジェクトに補助金を出しました。その後も、DR事業や、蓄電池設置の補助金制度で、VPP実現を促進しています。
また、太陽光発電システムや蓄電池、EVなどの創エネ・蓄エネ設備が企業や家庭に広まっているのも大きな要因の1つです。
これまで電力を消費するだけだった電力需要家が、電力を供給することもできるようになったことは、VPPの発展を後押ししています。
さらに、IoTの技術革新も不可欠です。HEMSやBEMSといったエネルギーマネジメントシステムで、家庭や企業の電力使用量を効率化することはすでに可能です。
小規模発電所をネットワークを繋ぎ、需要に合わせたVPP取引が自動コントロールできるようになれば、社会全体のエネルギー効率が最適化できるでしょう。
VPPとデマンドレスポンス(DR)の違いは?
VPPを運用するには、地域で発電された電力を効率よく使うために、デマンドレスポンス(DR)が必要です。
デマンドレスポンスとは、電力の使い過ぎの抑制(下げDR)や、電力が余っているときの利用促進(上げDR)をおこない、電力の需要と供給のバランスを取ることを指します。
具体的には、太陽光発電量が増える真夏の昼間に蓄電池の充電量促進したり、電力供給量が足りない時には節電を呼び掛けたりします。
VPPの「ネガワット取引」とは?
出典:資源エネルギー庁
「ネガワット取引」とは、インセンティブ型の下げDRのことです。需要家は、電気のピーク需要が予想される時間帯に節電を実施し、アグリケーターを通して電力会社から報酬をもらえます。
仮想発電所(VPP)のメリット
仮想発電所のメリットは、以下3つです。
- 電力需要と供給バランスを最適化できる
- 再生可能エネルギーの普及拡大が見込める
- 電力需要の格差の解消が見込める
電力需要と供給バランスを最適化できる
1つ目のメリットは、電力需要と供給バランスを最適化できることです。
従来のように需要と供給のバランス調整を大規模の発電施設に依存してしまっている場合、広い範囲で需要と供給のバランス調整をしなければならないだけでなく、需要が急激に高まった際に備えて、余った発電設備の用意が必要など、大きくコストがかかっていました。
しかし、VPPを導入することで、一つ一つが小さな規模の発電設備になるため、設備コストを抑えられ、電力を集めて供給が可能なため、需要と供給のバランス調整ができるようになります。
再生可能エネルギーの普及拡大が見込める
2つ目のメリットは、再生可能エネルギーの普及拡大が見込めることです。
太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーは、天候や風のような自然環境の状況次第で発電できる量が変わってくるため、他の電源における出力を調整することで出力の変動をまとめ、電力の需給を同じにすることが必要です。
再生可能エネルギーでの発電設備を導入することが促進される中、例えば1日で発電できる量が需要の量を上回る時間があり、再生可能エネルギーの抑制が必要な場合に、VPPで需要を創り出せば、発電した電力が有効に使えます。
蓄電池のような需要家側によるエネルギーリソースを調整し、当初に計画していた需要を上回った需要を創り出すことで、需給バランスが保てます。
その結果、将来を考えた上で多量の再生可能エネルギーの普及拡大できる期待が高いです。
電力需要の格差の解消が見込める
3つ目のメリットは、電力需要の格差の解消が見込めることです。
電気需要は変化し続けているため、気温が急に上昇した場合や、下降する夏季や冬季では、需要が急激に増える場合があります。
このような電気需要の急増があると予想される場合では、通常であれば供給を増やすと同時に、需要を抑える対応が不可欠です。
仮に電気の需要と供給のバランスが崩れてしまった場合には、大停電のような最悪の事態に繋がってしまう可能性があります。
電気を安定的に供給するために、需要と供給のバランスを保つことが重要です。
そこでVPPを使って分散型のエネルギーを抑え、需要と供給のバランスを保つことに役立つことに期待が集まっています。
具体的には、需要家における自家発電設備を利用したり、蓄電池・EVから放電させたり、それ以外であれば空調や照明などの需要設備の利用を削減することも効果的な対策です。
仮想発電所(VPP)のデメリット・問題点
VPP事業を成立させるためには、以下のような課題を解決する必要があります。
- VPP事業者やリソース提供者の収入源の確保
- ICT×IoT、AIの自動制御導入にコストが必要
- 逆潮流に関する制度など未整備のものがある
VPP事業者やリソース提供者の収入源の確保
VPP構築のためには、アグリゲーターなどのVPP事業者が利益を得られる市場を整える必要があります。
利益が得られる見通しがなければ、参入する企業が出ず、VPP事業の普及促進が進みません。
2024年度は、需給調整市場の全商品が揃い、容量市場の実効初年度となっているので、より多くのインセンティブが得られると期待されています。
ICT×IoT、AIの自動制御導入にコストが必要
VPPは小規模リソース(発電所)を統合制御する必要がありますが、制御システムの導入や運用にはコストが発生します。
効率的に運用するためには、ICTやIoTを活用したリモート制御や、AIの自動制御が必要ですが、高度な技術を駆使した設備を導入するには高額な初期コストがかかります。
リソースの数が増えるほど、より精密なコントロールが必要になり、運用コストがさらに増加する可能性が高いです。
逆潮流に関する制度など未整備のものがある
VPPに利用する小規模発電所から逆潮流が発生してしまうと、電力系統全体に影響が及び、最悪の場合大規模停電に繋がる恐れがあります。
しかし、制度がまだ未整備な部分もあるため、VPP事業の普及の妨げとなっています。
仮想発電所(VPP)に関する日本企業の取り組み(課題)
仮想発電所(VPP)に関する日本企業の取り組みを4つ紹介します。
東京電力
1つ目に紹介する企業は、東京電力です。
東京電力では、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入する企業や個人が急激に増えた結果、電力が余ったり、周波数を調整する力が不足したり、系統電圧が上がったりといった、さまざまな課題があります。このような課題を解決するための手段として、VPPの社会での実装に向け協力事業者と共に取り組んでいます。
21年度に開設した需給調整市場の三次調整力②への取引参入を実現しています。
今後も、引き続き一次調整力などの需給調整市場での他メニュー、容量市場の取引に参入することを目指し、取り組んでいく見込みです。
外部サイト:東京電力|東京電力グループサイト
東北電力
2つ目に紹介する企業は、東北電力です。
東北電力のVPP事業では、企業や自治体、一般家庭の顧客が持っている発電設備や蓄電池だけでなく、電気自動車などに対して、VPPでのエネルギーリソースを集約・遠隔制御して電力における需要と供給のバランスを調整する機能として利用するための検討が、多くの実証を通じ進められています。
また、持続可能な社会を実現するため、再生可能エネルギーにおける発電比率を上げることにも力を入れています。
再生可能エネルギーが持っている天候や風などの自然環境に左右されやすいという課題に関しても、東北電力のVPPを通じて補え、クリーンエネルギーの活用を促進できる考えです。
東北電力では、VPP事業を通じ、従来と同じように地域社会における生活・事業を継続するため、電力を安定的に供給することと、環境を保全することの両面からサポートすることで、地域社会の発展に貢献するため取り組みが進められています。
外部サイト:東北電力
京セラ
京セラの先進の技術研究所で開発されたVPPシステムでは、家庭で使う電力、および太陽光発電での電力をAIで予測できます。
系統での電気が足りない場合、または余っている場合に、高い精度で電気を抑え、電力会社から購入する電力の量を調整できる蓄電池制御が可能です。
この際、FIT契約をしている家庭や、すでに契約が終わっている家庭でも、顧客に適した計画を立案してもらえます。
また、一人ひとりの顧客に適した遠隔制御が可能なことも、京セラのVPPシステムのメリットです。
現在の一般的なVPPシステムでは、電力の予測に誤差が発生した場合、高い精度で制御できないことや、系統の電気が足りない場合に、調整できる電力の量が減ってしまうリスクが高いです。
しかし、京セラのVPPシステムでは、このような誤差による影響を可能な限り減らせるような運転計画を立案するアルゴリズムがあります。
外部サイト:京セラ
株式会社VPPJapan
株式会社VPP Japanは、2017年に設立したオフグリッド電力会社で、VPP事業に特化したサービスを提供してきました。
2019年では、国内で最大級ともいえる太陽光発電での電力供給事業を実施するほど、規模が拡大されています。
VPP Japanは、環境に優しい再生可能エネルギーをさらに拡大することだけでなく、以下のようなビジョンを持っています。
【環境に優しいエネルギーの拡大】
工場や商業施設などに設置された太陽光発電を活用し、日照時間に影響されない安定したエネルギー供給の実現を目指しています。
【電気自動車の普及】
太陽光発電システムを利用することで、商業施設に訪れた人が使う電気自動車の充電を実施することや、宅配で使う車両を電気自動車に移行することを促進させるようです。
【余った電力の分配】
発電した量と施設内で使う電力量を調整し、余った電力が分配できるような仕組みの構築を目指しています。
外部サイト:株式会社VPPJapan
まとめ
VPPとは、バーチャルパワープラントの英語の頭文字を取った略称であり、仮想発電所のことです。
VPPのメリットには、電力需要と供給バランスを最適化できることや、再生可能エネルギーの普及拡大が見込めることがあります。
さまざまなメリットがある仮想発電所は、日本でも多くの企業が取り組んでおり、さまざまな課題解決に向け今も取り組みが続けられています。
この記事を書いた人
ikebukuro