火力発電の仕組みとメリット・デメリットをわかりやすく解説
- 公開日:2024.12.11
- 更新日:2025.03.10

火力発電は、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料を燃やしてお湯を沸騰させ、蒸気の力でタービンを回して発電する方法です。
発電効率が高く、発電量が調整しやすいというメリットから、日本で使用される電力の多くを発電しています。
しかし、CO2排出量が多かったり、燃料を輸入に頼っていたりといった点がデメリットです。カーボンニュートラルが求められる現代においては、火力発電への依存を減らす必要があります。
この記事では、火力発電の仕組みやメリット・デメリットを紹介します。火力発電の今後の動向についても解説するので、理解していきましょう。
火力発電とは?仕組みと燃料の種類
火力発電の仕組みについて、使用される燃料や、電力供給に占める割合を含め解説していきます。
火力発電の仕組み
出典:電気事業連合会
火力発電は、燃料を燃やしてお湯を沸騰させ、沸騰した蒸気の力で蒸気タービンを回転させて電力を発生させる仕組みです。
家庭のコンロを使ってお湯を沸騰させる場合、やかんの口が小さいやかんほど、飛び出す湯気の勢いは強くなります。
火力発電では、この飛び出した湯気の力を利用して風車を回す仕組みです。
火力発電で使用される燃料
火力発電で使用される主な燃料は、LNG・石炭・石油の3種類です。
LNG | 石炭 | 石油 | |
活用 | ミドル電源 | ベースロード電源 | ピーク電源 |
コスト | 〇 | ◎ | △ |
環境性 | ◎ | △ | 〇 |
LNG
LNGとは、気体の天然ガスを-160℃に冷却した液化天然ガスのことです。火力発電の主力燃料として、全体の約7割を占めています。
火力発電でCO2排出量が最も少ない、クリーンな燃料と言われています。
石炭
石炭は経済性に優れた燃料として使用されています。設備コストは高いが発電コストは低く経済的です。
埋蔵量が豊富なため、安定的な発電を可能とします。
石油
石油は調達の柔軟性が高い燃料です。液体燃料のため、取り扱いが比較的容易で貯蔵や運搬が簡単です。
しかし、価格変動が大きく、国際情勢の影響を受けやすいデメリットも併せ持っています。
火力発電の電力供給に占める割合
出典:特定非営利活動法人「isep」環境エネルギー政策研究所
特定非営利活動法人「isep」環境エネルギー政策研究所では、2023年(暦年)の自然エネルギー電力の割合を推計し、化石燃料による火力発電が発電する年間の電力量の割合は66.6%であったことを公表しています。これは、前年の72.4%から減少しています。
また、価格が高騰したこともあり、LNGは29.0%と前年の29.9%から減少しましたが、石炭においては前年の27.8%から28.3%に増加している現状です。
このように、日本において火力発電は全体の6~7割の電力供給率を占めています。
火力発電の種類
火力発電の基本的な仕組みは、燃料を燃焼させて高温・高圧の蒸気を発生させ、その蒸気の力でタービンを回転させることで電気が生成されます。発電方法はいくつかあります。それぞれ解説します。
汽力発電
汽力発電は火力発電の主流となっている方式です。燃料を燃焼させてボイラー内で高温・高圧の蒸気を発生させ、その蒸気の力でタービンを回転させて発電します。100万kW以上の出力を持つ発電所もあることからも、大規模な発電に適している発電方法と言えます。
汽力発電は、大量の冷却水が必要なため、多くの発電所が海岸近くに立地しているのが特徴です。また、起動に時間がかかるものの、一度稼働すると安定した電力供給が可能です。汽力発電は石炭、石油、LNGなど様々な燃料に対応できる柔軟性も持っています。
ガスタービン発電
ガスタービン発電は、燃料を燃焼させて得られた高温・高圧のガスを直接タービンに吹き付けて発電する方式です。圧縮機で空気を圧縮し、燃焼器で燃料と混合・燃焼させ、その高温・高圧ガスでタービンを回転させます。
小型で高出力が得られることがガスタービン発電の特徴です。また、起動・停止が早く、負荷変動への対応が迅速であるため、ピーク時の電力需要に対応するのに適しています。
コンバインドサイクル発電
コンバインドサイクル発電は、ガスタービン発電と汽力発電を組み合わせた高効率の発電方式です。
ガスタービンで発電を行い、その排熱を利用して蒸気を発生させ、さらに蒸気タービンでも発電を行います。この2段階で発電することにより、単独のガスタービン発電や汽力発電よりも発電効率が高いのが特徴です。また、環境負荷の低さ、そして運用の柔軟性も特徴として挙げられます。
ガスタービンの特性を活かした迅速な起動・停止が可能なため、電力需要の変動に柔軟に対応できます。
火力発電のメリット
火力発電のメリットは、以下の通りです。
- エネルギー変換効率が高い
- 出力調整がしやすい
- 建設場所を選びやすい
- 事故時に被害が広がりにくい
- 発電量が安定している
エネルギー変換効率が高い
発電方法 | 変換効率または発電効率 |
水力 | 約80% |
火力 | 約35~55% |
風力 | 約30〜40% |
原子力 | 約33% |
太陽光 | 約20% |
地熱 | 約20% |
バイオマス | 約20% |
火力発電は、水力発電に次いでエネルギー変換効率の高い発電方法です。
エネルギーをどれだけ電力に効率よく変えられるかを示す「エネルギー効率」は、水力発電の80%には及ばないものの、55%程度と原子力発電や、風力発電などを上回っています。
出力調整がしやすい
電力需要に合わせて電気の出力を調整しやすいことも、火力発電のメリットです。
電気は真夏や真冬にエアコンなどが多く使用されるため、需要が大きくなるなど、季節により使用量が大きく変動します。
そんな時に必要な時だけ必要な分の電力を供給できる火力発電は、電気の損失を減らすことが可能です。必要な時に電力が足りないといった事態も避けられます。
風力発電や太陽光発電といった自然頼みの発電方法の場合、天候次第で発電量が大きく変わるため、すぐに電気量を増やすことは不可能です。
精密機器や電化製品など様々なものに電気が使用されている現代において、電気が不足しないことは非常に重要なポイントです。
火力発電は出力抑制の優先順位が高い
火力発電は発電量を調整しやすい特徴があるため、出力制御の優先順位が高くなっています。
太陽光の発電量が多い春秋の昼間には、空調設備の稼働も少なく、供給が需要を上回ってしまう可能性があります。需給のバランスが崩れると、電気系統設備に不具合が生じたり、大規模停電が起こったりすることも。
そのような時には出力抑制(出力制御)を行い、電気の供給量を減らさなければなりません。
出典:資源エネルギー庁
建設場所を選びやすい
火力発電はさまざまな種類の発電方式があり、小規模な設備でも電気を供給できるため、広い土地がなくても、火力発電所を建設できます。
地熱発電では、発電効率を良くするために火山の近くなどに発電所を設置する必要があったり、水力発電では、発電に必要な水を貯蔵したり流したりする河川やダムが必要であったりと設置する場所にある程度制限があります。
その点、設置場所に縛られない火力発電は、ある程度の敷地があれば建設できるため、建設難易度も低いです。
事故時に被害が広がりにくい
火力発電では、事故発生時でも比較的被害が広がりにくいことも特徴の1つです。
例えば、原子力発電所で事故が起きた場合には、有害な放射能が発生し長期間に及んで人体や自然環境に重大な影響が生じます。
その一方で、火力発電であれば事故が発生した場合でも、放射性物質は生成されません。
そのため、事故が発生したとしても被害が広がりにくいです。
放射性物質のような、管理の仕方によって危険に繋がる燃料を使わない点で、火力発電は比較的安全な発電方法といえます。
発電量が安定している
火力発電は、燃料さえあれば昼夜を問わず、天候や季節の影響も受けずに安定して発電できます。
私たちがいつでも好きな時に電気を使ったり、企業が滞りなく経済活動を続けたりするためには、電力の安定供給が欠かせません。
風力や太陽光といった再生可能エネルギーは、天候によって発電量が増減してしまいます。また、太陽光発電は夜間に発電することができません。
火力発電の課題・デメリット
火力発電のデメリットは、以下3つです。
- 燃料を輸入に頼っている
- 燃料資源に限りがある
- CO2を大量に排出する
燃料を輸入に頼っている
火力発電の燃料として利用される化石燃料そのものが有限であり、日本では必要な化石燃料を輸入に頼っており、日本のエネルギー政策上の大きな課題です。
資源エネルギー庁が公開している情報では、2019年度の原油海外依存度は99.7%であり、LNG海外依存度は97.7%、石炭海外依存度は99.5%と公表されています。
つまり、ほぼ100%に近い割合が海外からの輸入です。
そのため、国際情勢の変化で化石燃料が値上がりし、それに伴い電気料金が高くなる可能性が高いです。
国として燃料の調達先を複数の国に分散するなど、想定外の事態に備え準備しておく必要があります。
燃料資源に限りがある
上記で少し解説しましたが、燃料となるLNGや石炭、石油自体が枯渇してしまう可能性もあります。
一般社団法人日本原子力文化財団の発表では、LNGは約59年、石炭は約118年、石油は約46年で枯渇してしまう推測です。
電気は現代にとって欠かせない存在であり、その需要は今後も増え続けることが予想されるため、少しでも早いうちに火力発電以外の発電方法を検討することは必須でしょう。
CO2を大量に排出する
火力発電は、発電する際に地球温暖化の原因であるCO2を大量に排出します。
環境問題が深刻化する現代において、CO2排出量を減らすことは、日本に限らず世界共通で重要な課題になっています。
2015年に開催されたパリ協定の目標では、2050年になるまでに地球の気温上昇を2度より下に抑えることが目標です。
この協定にはCO2の最大排出国である中国やアメリカを含め、およそ200か国が出席し、それぞれの国がCO2の排出量を減らすために取り組むことになりました。
日本も協定に出席し、CO2の排出量が減らすことをいわれています。
国内で排出されているCO2のうち、約40%は発電由来であり、目標を達成するには、火力発電におけるCO2排出量を減らすことが大きなポイントです。
火力発電の今後・将来性
火力発電は今後どうなっていくのか解説します。
政府は火力発電の割合引き下げを決定
前述したように火力発電では、特に石炭を燃料とした火力発電を中心に、多くのCO2を排出すると問題があり、2050年までに掲げられているカーボンニュートラルにおいては、火力発電で発生するCO2排出量を実質ゼロにする必要があります。
そのため、第6次エネルギー基本計画において、電力を発電する方法、「電源」の構成のうち、約32%を占めている石炭による火力発電の割合を、2030年度までに約19%まで削減することが公表されています。その代わりに再生可能エネルギーの導入を拡大する計画です。
しかし、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギー発電は、天候などの自然条件の影響を受けて発電量が増減してしまうため、それだけでは日本のエネルギーを支えることはできません。火力発電は発電量を安定させ、電力を供給するバランスを調整するなど、今後も非常に重要な役割を果たすでしょう。
アンモニアを燃料とする新技術の実験も進行中
新しい燃料として、アンモニアが注目されています。
次世代エネルギーといわれる水素の「キャリア」、つまり輸送媒体で活用できる可能性があるからです。
大量輸送が難しい水素を、輸送技術が確立されているアンモニアに変えてから輸送し、使う場所でアンモニアを水素に戻すという手法が現在研究されています。
さらに、近年ではアンモニアを燃料として使う方法も研究されています。
アンモニアは、燃焼時にCO2を排出しない「カーボンフリー」の物質です。現在の石炭での火力発電にアンモニアを混ぜて燃やす方法でも、CO2排出量を削減可能です。
現時点でアンモニア混焼火力発電は、実証実験で十分に高効率な発電ができると分かっており、実用化に向け期待が高まっています。
大手電力会社ではバイオマス燃料を利用する試みも
大手電力会社ではバイオマス燃料を利用する試みも見られます。
バイオマス発電とは、植物または動物のような生物から獲得できる資源であるバイオマスを使用して発電することです。
バイオマスには、トウモロコシやサトウキビなどの作物や、魚油や動物油脂などの動物由来の資源など、豊富な種類の原料がありますが、現時点では主に樹木類や廃棄物がバイオマス発電で使用されています。
しかし、他のバイオマス資源においても、今後発電で利用されることが考えられます。
火力発電に関するよくある質問
火力発電について考える際に、気になる点についてまとめました。
他の国で火力発電が占める割合は?
以下のグラフは主要国の発電電力量に占める割合を発電方法ごとに表したものです。日本の電源構成において、火力発電が占める割合は先進国の中では多い方だと言えます。
出典:資源エネルギー庁
アメリカと中国では火力発電の割合が高くなっています。これは、国内でシェールガスや石炭が産出され、安く発電できるためです。
反対に、ヨーロッパ諸国やカナダでは、再生可能エネルギーや水力の発電割合が多くなっており、二酸化炭素の排出量削減を進めています。
火力発電の種類と方法は?
火力発電には主に、「汽力発電」「ガスタービン発電」「コンバインドサイクル発電」の3つの発電方法があります。全て燃料を燃やしてタービンを回すという点では同じ仕組みですが、それぞれ特徴があります。
- 汽力発電:ボイラーでお湯を沸かし、高温・高圧の蒸気でタービンを回す。最も一般的。
- ガスタービン発電:灯油やLNGなどを燃やした際に出る燃焼ガスでタービンを回す。小さな機械でも高出力。
- コンバインドサイクル発電:汽力発電とガスタービン発電を組み合わせた方法。燃焼ガスアの膨張力でガスタービンを回し、排ガスの余熱でお湯を沸かして蒸気タービンを回す。仕組みが複雑だが、最も効率が良くCO2排出量も少ない。
火力発電で排出されたCO2を回収するCCS/CCUSとは?
CCSとCCUSは、排出されたCO2を回収して削減する技術です。
排出されるCO2を削減できれば、火力発電のメリットを活かして発電を続けながら、カーボンニュートラルの達成を目指すことができます。
CCSとは、二酸化炭素を分離・回収、地層に封じ込めて貯留し、二酸化炭素を削減する方法です。
CCUSは、回収した二酸化炭素を有効利用する方法です。油田の油層に圧力をかけて原油を採掘しやすくしたり、ドライアイスの原料として利用したりします。
経済産業省が令和4年5月にとりまとめた「CCS長期ロードマップ」では、2050年時点で二酸化炭素の貯留量を年間1.2億t~2.4億tとすることを想定し、2026年までに最終投資決定を行い、2030年までにCCS事業開始に向けて事業環境整備を行うとしています。(参考:CCS長期ロードマップ検討会中間とりまとめ 経済産業省)
カーボンニュートラルに向けて個人ができる取り組みは?
カーボンニュートラル達成のために、個人では以下のような取り組みができます。
- 電気料金プランを再生可能エネルギー由来の電気が使えるプランにする
- 家庭用太陽光発電設備を導入する
- 省エネ性能の高い家電を使う
- 環境ラベルが表示された環境に優しい製品を選ぶ
- 電気の使用を需要が少ない時間帯に移動するピークシフトを行う
電気料金プランを変えたり、太陽光発電設備を導入したりすれば、家庭でCO2排出量ゼロの電気を使うことができます。省エネ性能の高い家電を選べば、さらに節電できるでしょう。
また、カーボンオフセット認証ラベル・カーボンニュートラルラベル・グリーンエネルギーマークなどの環境ラベルが表示された製品を選ぶことで、製品の生産時のCO2削減を促進することが可能です。
さらに、電気の使用をピークシフトすると、火力発電の発電量を抑えることができます。具体的には、夏の昼間(13~16時頃)と、冬の朝夕(8~10時・17~19時頃)が需要のピークです。家事の時間をずらしたり、外出したりして、電気の使用時間をシフトすることで、CO2の排出量の削減に繋がります。
火力発電所の割合を削減して電力の安定供給はできる?
前述のとおり、火力発電は電力需要のピーク時に発電量を増やし、安定供給を支えています。
しかし近年、発電設備の老朽化やCO2排出量削減を促進するため、火力発電所の休廃止が相次いでいます。特に、石炭火力は、現在約32%占めていますが、2030年度には19%程度にまで減少させると計画されています。
しかし、発電所が減ってしまうだけでは、エネルギーの安定供給を保つことはできません。CO2を排出しない燃料であるアンモニアや水素を活用した火力発電や、安全性を確保した
まとめ
火力発電は、燃料を燃やしてお湯を沸騰させ、蒸気の力で蒸気タービンを回転し電力を発生する仕組みの発電方法です。
燃料には、主にLNGや石炭、石油が使用されています。
火力発電には、安定して電力供給ができたり、事故発生時に被害が少なかったりといったメリットもありますが、発電におけるCO2排出量が多いといったデメリットも存在します。
年々深刻化する環境問題から、火力発電の割合を減少させることが求められているため、メリット・デメリットを含め、十分に理解することが大切です。
この記事を書いた人
ikebukuro