人工光合成の実用化はいつ?デメリットや問題点、日本企業の動向を解説

  • 再生可能エネルギー
  • 公開日:2024.12.11
  • 更新日:2024.12.11
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人工光合成とは、二酸化炭素と水から有機物と酸素を生成する技術のことです。深刻化する環境問題の背景から、人工光合成の取り組みが官民一体となって実用化が進められています。

人工光合成には、二酸化炭素の排出量を削減でき、地球温暖化対策になると言うメリットがあります。しかし、費用が掛かりすぎるというデメリットもあり、実用化までにはまだ時間がかかる見通しです。

この記事では、人工光合成の仕組みやメリット・デメリットについて解説します。日本企業の最新の動向についても紹介しますので、参考にしてください。

人工光合成とは

人工光合成について解説する前に、植物が行う光合成について簡単に説明します。

そもそも、光合成とは光エネルギーを化学エネルギーに変え、有機物質を作成する反応過程のことです。二酸化炭素が吸収され、空気中に酸素を放出しています。

そして、工光合成とは太陽エネルギーを化学エネルギーに直接変え、蓄積する技術です。

人工光合成が行われる流れ

人工光合成は、光触媒で水を酸素と水素イオンに分解し、水素イオンと二酸化炭素を反応させて、オレフィンやメタンなどの有機物質を作り出します。

出典:資源エネルギー庁

人工光合成は、以下3つの手順で行われます。

①太陽光と光触媒で水を分解

水を酸素と水素に分解するプロセスにおいて、重要な役割を担うのが「光触媒」です。

水を浸したシート状の触媒に太陽光を当てることで、電気を使用しなくても水が酸素と水素に分解されます。 

太陽光のエネルギーを利用するため、生産する際に二酸化炭素が発生しないことが光合成の特徴です。

人工光合成では、太陽光エネルギーを利用し、どれだけ効率良く水素が生成できるかの「エネルギー変換効率」が非常に重要となります。

そのため、大幅なコストダウンを実現するために、広大な面積で生産できる光触媒シートを利用して、2024年には4%、2030年には10%の変換効率達成、およびそれを利用した数万平方メートル規模での屋外試験による実証を目標に掲げ研究が進められています。

人工光合成の実装に向け、プロジェクトにおける光触媒は、将来的に世界をリードしていく技術として期待が高いです。

②分離膜を使って酸素と水素を分離

先ほどの工程により生成された酸素と水素のうち、この後に生成される有機化合物合成では水素が必要になるため、分離膜という薄膜を利用して混合ガスを分離させます。

分離膜は、酸素分子が通過できず、水素分子のみが通過できるサイズの細孔が空いているため、酸素と水素から成る混合ガスを通過させることにより、水素だけを選択して取り出すことが可能です。

③合成触媒でオレフィンを生成

分解幕を利用し酸素と分離した水素を、二酸化炭素と反応させることにより、プラスチックなどの原料になるオレフィンを製造するうえで重要な役割を担うのが「合成触媒」です。

高い収率で高い生産性を実現するための触媒と、プロセス技術を開発し既に小型のパイロットスケールで実証実験が成功しています。

人工光合成を行うメリット

人工光合成を行うメリットは、以下3つです。

  1. CO2の削減に役立つ
  2. 化石資源の枯渇防止になる
  3. 食用タンパク質によって食料問題が解決する可能性も

ひとつずつ解説していきます。

CO2の削減に役立つ

1つ目のメリットは、CO2の削減に役立つことです。

人工光合成を普及できれば、CO2排出量の削減に大きく役立つと期待されています

二酸化炭素は、世界中で深刻化している気候変動問題の主な要因であるため、少しでも早くCO2排出量を削減させることが求められています。

しかし、実際にCO2排出量を大きく削減させようとした場合、現在利用している設備や社会活動を中止しなければならない場合もあり、現実的には厳しい状況です。

人工光合成が普及すれば、気候変動の問題であるCO2を吸収し、化学反応に利用できるため、酸素や水素エネルギー、オレフィンを生成しながらCO2の排出量を削減できます。

化石資源の枯渇防止になる

出典:エネ百科

2つ目のメリットは、化石資源の枯渇防止になることです。現在確認されている埋蔵量と、これまでの化石燃料の使用量では、石油は54年、天然ガスは49年で枯渇してしまうと考えられています。

人工光合成が普及することで、化石燃料に頼らずに生活できる社会を実現できます

多くの化石燃料が、火力発電に限らず化学製品の生産や生成に利用されています。例えば、現在世の中に提供されているプラスチックは、石油が原料に生産されています。

このように生活する上で必要不可欠な化石燃料ですが、枯渇してしまうリスクもあるため、永久的に利用できないエネルギーです。 

しかし、人工光合成が実用できれば、太陽光、水、二酸化炭素の3つでオレフィンと呼ばれるプラスチック原料をはじめとした有機化合物が生成できます

食用タンパク質によって食糧問題が解決する可能性も

3つ目のメリットは、食用タンパク質によって食糧問題が解決する可能性があることです。

人工光合成により食用タンパク質が生成できれば、食料を自動で生産できる仕組みが構築でき、人口が増加していることで直面している、食糧不足問題の解消に役立つ可能性があります。

ドイツの研究者が公表した論文によると、太陽光のエネルギーで微生物を培養すれば、大豆などと比べ10倍以上の効率的な食料が合成できるようです。

人工光合成は、このような大きなメリットがあるものの、現時点でまだ実用化されていないのは、実用化に向け大きな課題を抱えているからです。

人工光合成の課題・デメリット

人工光合成の課題・デメリットは、以下4つです。

  • 費用負担が大きい
  • 光触媒の耐久性が低い
  • 合成時に発生する混合ガスが爆発する可能性がある
  • プラント建設による森林伐採の懸念がある

費用負担が大きい

1つ目のデメリットは、費用負担が大きいことです。

人工光合成を利用したエネルギーの産出においては、未だに研究段階のため、化石燃料と比べると費用面での負担が大きくなってしまいます

世界人口の求めるエネルギーや食糧を生成する上では、大量生産が必ず必要になるため、いかに安くできるかの低コスト化が必須です。

多くの量のエネルギーを人工光合成だけで生成しようとすると、エネルギー変換効率がもともと良くないことも重なり、相当な量の設備を新たに建設しなければなりません。

しかし、人工光合成で利用する設備は、化石燃料などで利用されている既存燃料でのエネルギー製造と比較し費用が高く、長期的なメンテナンスなどを考慮した場合、実現するためには非常に多くのコストが発生してしまいます。

光触媒の耐久性が低い

2つ目のデメリットは、光触媒の耐久性が低いことです。

人工光合成において重要な役を担う光触媒には、腐食や劣化がしやすいという性質があります。

水を水素と酸素に分解させるためには、光触媒を水の中に設置しなければなりません。

また、日光に常にさらされているため、光と水の影響を受けて腐食や劣化に繋がりやすい状況です。

そのため、コストを考えた上でも、光や水に対して耐久性の高い光触媒の開発が課題となっています。

合成時に発生する混合ガスが爆発する可能性がある

3つ目のデメリットは、合成時に発生する混合ガスが爆発する可能性があることです。

人工光合成が抱える課題の1つに安全性への懸念があります。

ここまでの解説で気付いている方もいるかもしれませんが、人工光合成では水から多くの水素と酸素を発生させます。

水素は可燃性ガスであり、酸素は助燃性ガスのため、万が一に着火源が存在している場合に、非常に大きな爆発が発生してしまう危険があります。

人工光合成にかかわる安全性の基準、法律などがしっかりと整備されるまでは、まだまだ時間を要する可能性が高いです。

プラント建設による森林伐採の懸念がある

4つ目のデメリットは、プラント建設による森林伐採の懸念があることです。

人工光合成による生成を多く確保するために、さまざまな場所で運用しようと思うと、新たにプラント設備を建設する土地開発を行う必要があります。 

プラント設備を建設するには、数100から数1,000㎡といった単位の土地を確保しなければなりません。

しかし、そのような広大な土地を確保したり、建設の工事を行ったりする場合、山の切り崩しや森林伐採などを行う必要があります。

このように、人工光合成のプラントを建設することで環境を破壊してしまう可能性もあるため、今後は人工光合成の設備を小型化することも求められています

日本企業における人工光合成研究の取り組み

日本企業における人工光合成研究の取り組みを、3社紹介します。

三菱ケミカル株式会社

出典:三菱ケミカルグループ

三菱ケミカルホールディングスグループでは、年々深刻化している資源問題や環境問題を解決し、持続可能な炭素循環社会の実現に向けて、太陽光エネルギーを活用して水の分解で得られた二酸化炭素と水素から、プラスチックや化学品原料を製造する人工光合成および化学品製造プロセスの研究開発が取り組まれています。

このプロセスでは、光触媒を活用した水の分解、水素分離膜などを用いた水素の安全な分離回収、そして二酸化炭素と水素から革新的な触媒を利用して低級オレフィン合成を行う3つの技術を核に構成されています。

現在は、国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発プロジェクトにおける研究推進組織の人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)へ参画することで、実用化を目標に取り組みが進められています。

パナソニック

出典:パナソニック

人工光合成の研究に取り組んできたパナソニックでは、2013年に東京で開かれた「エコプロダクツ2013」の場で、研究成果を一般公開しました。

これまでの人工光合成により生成される有機物は、ギ酸がメインでしたが、パナソニックが取り組んだ研究では、触媒の材料を変更したことでメタンの生成に成功したのが特徴です。

また、パナソニックの発表では、インジウムと窒化ガリウムという無機材料だけを利用した人工光合成が実現できたことで世間から注目を集めました。

これまでの人工光合成の場合、触媒部には有機物を使用した金属錯体を利用することが一般的な方法でしたが、無機材料のみを用いることで、太陽光に対し素早く追随できる反応速度が実現可能になりました。

トヨタ

出典:株式会社豊田中央研究所

トヨタ自動車では、2000年から人工光合成の研究に取り組んでいます。

トヨタ自動車では、水と太陽光エネルギー、二酸化炭素を再資源化するためのシステム実現に向け力を注いできたのが特徴です。

トヨタ自動車は、太陽光を変換する変換効率として掲げていた元々の目標10%を2021年時点で達成しています。

この数値は世界的に見ても最高峰の数値であり、社会実装に向け世界中から大きな期待が集まった瞬間です。

必要な二酸化炭素や水素を電極の全面に対し途切れることなく供給し続け、化合物の生成を促進させる工夫を導入したことにより、効率を高めることに成功しました。

このトヨタ自動車により開発された構造は、より大きな規模で実施することも可能と期待されています。

そのため、将来的に工場から排出されている二酸化炭素を利用したシステムの構築を目標に研究は今も続けられています。

さらには、実用化に向け耐久性の向上および低コスト化の実現の面でも期待する声も多いです。

世界の人工光合成に関する取り組み

世界でも人工光合成の研究は進んでいます。

アメリカでは、エネルギー省が人工光合成ジョイントセンターを設立し、植物の光合成の10倍の効率を目指して人工光合成の研究に取り組んでいます。2020年には1億ドルを投資するなど、クリーンエネルギー開発の1つとして力を入れているようです。

また、フィンランドでは、ラッペーンランタ大学(LUT)とVTT技術研究センターが、電気と二酸化炭素からタンパク質を生成する研究を行っています。実用化されれば、温室効果ガス削減と食糧問題の解決を同時に叶えることが期待されます。

さらに、近年急増しているのが中国の人工光合成に関連する特許出願数です。今は中国国内での特許ですが、今後は国際出願も増加すると見られ、これまで日本とアメリカが主導してきた人工光合成の研究開発競争に加わる可能性が高くなっています。

人工光合成に関するよくある質問

人工光合成について考える時、気になる点についてまとめています。

人工光合成の実用化はいつ?

政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によれば、カーボンリサイクルの一環として、2030年以降に人工光合成によるプラスチック原料作成の大規模実証を行い、2040年にはコスト低減・補助金等による導入支援を行うとしています。

実際に実用化されるのは2040年以降、補助金などの支援なしに商用化するのは2050年以降となると見られます。

参考:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

人工光合成で作れるものは?

人工光合成では、太陽光・水・二酸化炭素を利用して有機物・有機化合品を作り出します。

具体的には、プラスチックの原料となるオレフィンや、防腐剤・抗菌剤に使われるギ酸、タンパク質などを作り出すことが可能です。

人工光合成と太陽光発電の違いは?

両方とも、太陽光を利用しますが、システムと作り出すものが異なります。

太陽光発電が太陽電池を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換します。人工光合成は光エネルギー使ってを水素や有機化合品と言った物質に変換します。

半人工光合成とは?

半人工光合成では人工の光触媒を利用せず、その代わりにシアノバクテリアが利用されます

シアノバクテリアとは、酸素を発生する光合成を行う原核生物であり、シアノバクテリアの光合成により生まれたエネルギーを搾取し人工光合成で利用する仕組みです。

半人工光合成では、太陽光をエネルギー源とし、水を原料に水素と酸素を生成します。

半人工光合成の水素と酸素の生成方法は、海面に設備を浮かせて大きな規模で生産する方法です。

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まとめ

人工光合成とは、簡単に言うと太陽エネルギーから化学エネルギーに直接変え、蓄積する技術です。

人工光合成のメリットには、CO2の削減に役立つことや、化石資源の枯渇防止になることがあります。

その一方で、合成時に発生する混合ガスが爆発する可能性があることや、プラント建設による森林伐採の懸念があるなどのデメリットも存在します。

そのため、今後人工光合成への取り組みを考えている企業の方は、取り組む前に人工光合成のメリットやデメリットを十分理解することが大切です。

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この記事を書いた人

ikebukuro

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