水素エネルギーのメリット・デメリットとなぜ普及しないか理由を解説
- 公開日:2024.12.12
- 更新日:2024.12.12
水素エネルギーとは、水素から得られるエネルギーです。水素と酸素を反応させたり、水素を燃焼させたりして生まれる電気や熱を利用します。
水素は地球上に豊富に存在し、燃焼しても二酸化炭素を排出しないので、脱炭素対策にメリットの大きいエネルギーです。しかし、水素の製造コストが高いことなど、デメリットも存在します。
この記事では、水素エネルギーの種類や注目されている背景などについて詳細に解説します。水素エネルギーのメリットやデメリット、普及させるための課題や問題点などについても説明するので、参考にしてください。
目次
水素エネルギーとは
出典:Tokyo水素ナビ
水素エネルギーとは、水素が燃焼などによる化学反応を引き起こした場合に生じるエネルギーのことです。
水素はさまざまな資源から製造できることに加え、燃焼反応の際に、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないことでも注目されています。
水素は水から生成することが可能で、燃焼する際に二酸化炭素(温室効果ガス)を排出しないクリーンなエネルギーです。さまざまな形状(気体、液体、固体、など)で貯蔵したり輸送したりできます。
また、災害時発生時などの非常事態においての活用も可能です。
加えて、最近は水素発電(水素から得ることができる熱エネルギーを利用した発電方法)も広く社会的な注目を浴びています。
水素エネルギーは全部で4種類
水素エネルギーはその生成方法によって、水電解法、蒸気改質法、メタル水素化法、生物由来水素、の4種類に分類できます。
水電解法 | 蒸気改質法 | メタル水素化法 | 生物由来水素 | |
生成方法 | 水の電気分解 | 化石資源に水蒸気 を反応させる |
金属に水素を吸着させる | 微生物から水素を生成 |
メリット | 最も一般的 | コストが安い | 効率が良い | 環境に優しい |
デメリット | 発電に化石燃料を使用するとCO2が排出される | 大量生産が難しい |
水電解法
「水電解法」とは、水に電気を通すことで水素と酸素を分離する(電気分解する)最も一般的な水素を取り出す方法です。中学校の理科の実験でやったことがある人も多いでしょう。
しかし、電気を発生させるために石油や石炭などの化石燃料を利用する場合は、地球環境に負荷をかけてしまうおそれがあります。
水蒸気改質法
「水蒸気改質法」とは、高温・触媒の状態にある天然ガスやナフサといった化石資源に、水蒸気を吹き込んで反応させることで、合成ガス(水素ガス)を得る方法です。前述した水電解法よりも安価に水素を製造できます。
メタル水素化法
「メタル水素化法」とは、金属に水素を吸着させて水素を製造する方法です。上記の水電解法や水蒸気改質法よりも効率的に水素を製造することが可能とされています。
生物由来水素
「生物由来水素」とは、微生物や藻類などの生物から水素を生成する方法で、地球環境にとても優しい水素を製造する方法です。
また、製造された水素の特徴によっても、「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の3種類に分類することができます。
グレー水素 | ブルー水素 | グリーン水素 | |
生成時の エネルギー |
化石燃料を使用 | 化石燃料を使用 回収技術などで CO2排出量を抑制 |
再生可能エネルギー を使用 |
コスト | ◎ | 〇 | △ |
環境価値 | △ | 〇 | ◎ |
グレー水素
グレー水素とは、天然ガス、石油や石炭などの化石燃料から製造された水素のことです。水素の製造プロセスにおいて、温室効果ガス(二酸化炭素など)が生じます。
ブルー水素
ブルー水素もグレー水素と同様に、天然ガス、石油や石炭などの化石燃料を利用して製造される水素ですが、ブルー水素は温室効果ガスを回収したり貯留したりするテクノロジーも利用することによって、温室効果ガスの排出量の削減が可能な方法を利用して生成される水素です。
グリーン水素
グリーン水素とは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーから製造された水素のことで、製造過程で温室高ガス(二酸化炭素など)を排出することがありません。
確かにグリーン水素は地球環境に最も負荷をかけない方法で製造できる水素ではあるものの、一方で製造コストが高くなってしまう課題が存在しています。
将来的に製造コストの低減化が進むことで、より一層グリーン水素が普及していくことが期待されています。
水素エネルギーのデメリット・課題点
一方、水素エネルギーのデメリットとしては、以下の3つを挙げることができます。
- コストが高い
- 世間の認知度が低い
- 爆発するリスク
詳細を説明していきます。
コストが高い
現時点においては、まだ水素エネルギーを生成・利用するための環境が整備されてはいないので、これまでの(化石燃料を利用するような)発電方法で製造された電気の方がコスト面においては有利と言わざるを得ません。
また、水素自動車や水素バスなどを一般社会において実現する際にも、これまでのガソリン車とほぼ変わらない水準の水素価格を設定することが必要になるでしょう。
世間の認知度が低い
石油や石炭、天然ガスなどの従来利用していた化石燃料と比べると、水素エネルギーは、一般社会における認知度・理解度はまだ低い状況にあります。
より広範に認知度・理解度を促進・普及させるためには、一般人にとっても利用しやすい環境を整備することが求められます。
爆発するリスク
水素の発火点は、実は「570℃」と自然に発火はしにくい気体なのです。しかし、水素爆発は非常に危険だというイメージを持つ人々も多く、爆発の危険性も実際に心配されています。
例えば、海外の事例ですが、韓国の水素工場やノルウェーの水素ステーションで2019年に大規模な爆発事故が発生しています。
こうした事故は、水素タンク組み立てに関する手抜き工事や人為的なミスが原因だったとされています。水素を扱う際には、設備そのものだけでなく、取り扱う作業員にも高水準な技術が必要です。
今後の普及に向けて、より一層の安全性確保が求められています。
水素エネルギーのメリット
水素エネルギーのメリットには、主に以下の4つがあります。
- さまざまな資源から製造することが可能
- 温室効果ガスを排出しない
- 非常事態においても利用できる
- エネルギー自給率の向上に貢献する
さまざまな資源から製造することが可能
水素は、石油、化石燃料、メタノール、エタノール、バイオマス、などのようにさまざまな資源からエネルギーを生成することができ、枯渇しません。
化石燃料は今以上に技術革新がなされなければ、有限のエネルギー原料であるとされています。
例えば、現在の資源を使い切ってしまうまでは、天然ガスが49年、石油が54年、石炭は139年と予測されています。
そのため、水素は枯渇せず生成がしやすいエネルギーとして、世界中から大いに注目を浴びています。
温室効果ガスを排出しない
水素エネルギーは、基本的に温室効果ガス(二酸化炭素など)を排出しないため、ゼロカーボン社会を実現するために、欠かすことができないエネルギーとして認識されています。
具体的には、水素発電は、水素そのものを熱量電池を利用して燃焼させて、大気中の酸素を結合させて発電するのです。こうした発電方法であれば、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないので、ゼロカーボン化に寄与できます。
しかし、水素の製造段階において石油や石炭などの化石燃料を使用した場合は二酸化炭素などの温室効果ガスが排出されてしまいます。
ゼロカーボン社会の実現を図るためには、太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーを使う必要があります。
非常事態においても利用できる
水素は、水を電気分解することで造られます。水から製造される水素は、さまざまな形状に変化(液体や気体など)させることが可能なので、貯蔵・運搬も容易です。
したがって、自然災害が発生して停電などが起きた場合でも、保存しておいた水素を利用して発電できるようになります。
我が国は、特に地震や台風などの激烈な自然災害の発生が多い国・地域とも言われているため、非常の際に簡単に活用可能な水素エネルギーは、大きなメリットを享受することができる有用なエネルギーになると期待されています。
エネルギー自給率の向上に貢献する
水素エネルギーを活用することで日本のエネルギー自給率を改善できる可能性があります。
日本のエネルギー自給率は、他の先進国に比べて低くなっています。電源構成の7割以上を火力発電が占めており、その原料となる化石燃料のほとんどを輸入に頼っているためです。
エネルギー自給率が低いと、国際情勢の変動や国家間の関係悪化などで、電力の安定供給が脅かされる可能性があります。
水素は、水をはじめとする化石燃料以外の資源(農業・林業・漁業で生じる商品化できない食品廃棄物や家畜の糞尿、廃プラスチックなど)、さまざまなものを利用して国内で生成できます。
国内で水素エネルギーの生産ができるようになれば、自給率を高めていくことができるでしょう。
水素エネルギーの将来性は?日常生活はどう変わる?
水素エネルギーが社会的な注目を集めている理由は理解できましたが、実際に私たちの日常生活はどのようにかわるのでしょうか。
水素エネルギーの将来性について解説します。
水素エネルギーを利用した自動車が走る
世界でも最大級の自動車会社である日本のトヨタ自動車株式会社は、非常に早いタイミングから水素エネルギーの将来を見据えて、開発を手掛けてきました。
トヨタは燃料電池自動車(FCV(Fuel Cell Vehicle)の「ミライ」という車の他にも、ダイレクトに水素を燃やして走行できる水素エンジン自動車の開発も進めています。
さらに、川崎重工株式会社や株式会社SUBARUなどと共同で、カーボンニュートラルの実現に向けた水素エネルギーを利用した自動車エンジンの開発と水素エネルギーのサプライチェーンの構築にチャレンジすることを発表しています。
今後は水素エネルギーを利用した自動車が、一般道路を走っている風景が当たり前になるかもしれません。
水素エネルギーを利用したバスが街中を走行する
バスなどの公共交通機関が水素エネルギーを利用する未来も実現しています。水素エネルギーを利用する燃料電池車両導入に向け、水素エンジンのコストダウンが進行しているためです。
例えば、2018年には東京都が量産型の燃料電池バスの導入をスタートさせています。さらに、2021年9月には災害避難所における非常用の電源として都交通局の燃料電池バスを利用可能な体制を整備しました。
また、燃料電池バスに利用されている水素は、福島県にある水素エネルギー研究フィールドにおいて製造されており、水素エネルギーのサプライチェーンも徐々に構築されつつあります。
火力発電所から排出されるものが二酸化炭素から水へと変わる
火力発電に水素を活用して、二酸化炭素の排出量を削減する取り組みも進められています。
具体例を挙げると、2018年には三菱重工業株式会社が天然ガスに30%の水素を混ぜて発電することが可能な「予混合式燃焼式ガスタービン」を実用化することに成功しています。
加えて、既に実証段階に進んでいる100%の水素を燃料として発電できる「水素然焼ガスタービン」の2025年に実用化される予定です。
工場からの温室効果ガスの排出がゼロになる
業種によっては、電化技術を活用したゼロカーボン化が困難なビジネスも確かにあります。
しかし、上述した水素エンジンを搭載した自動車と同様に、既存設備から製造される燃料を水素へと転換できれば、脱炭素化が難しい分野においても、温室効果ガス排出量の削減が期待できるでしょう。
他にも、水素から生成できるアンモニアなどの合成燃料も、その特性にマッチさせることで活用することが可能です。
家庭やオフィスのガス管から水素が供給されるようになる
家庭やオフィスに対して、現在利用しているガス管を利用してダイレクトに水素を供給できるようなインフラ整備が検討されています。実現すれば、社会全体を水素社会へと移行することが可能になるでしょう。
現時点で商用化されている家庭用や業務用の一部の燃料電池は、水素や都市ガスなど、複数のタイプのガスを同じタイミングで燃料として利用できます。
こうした設備導入の促進・拡大によって、どのようなタイミングで水素が供給されたとしても対応できるような準備が進行しているのです。
水素エネルギーはなぜ普及しないの?
水素エネルギーは徐々に認知度も高まっていますが、より普及を促進させるためには以下の課題・問題点があります。
大量に水素を調達・保存・利用するための技術が未発達
水素は、地球上に豊富に存在するクリーンなエネルギー源です。しかし、大量に水素を調達・保存・利用するための技術がまだ十分に発達していないため、水素社会の実現は遅れています。
水素を調達する方法としては、水の電気分解、石炭や天然ガスなどの化石燃料からの水素製造、バイオマスからの水素製造などがあります。しかし、こうした製造方法はいずれもコストが高く、大量の水素を効率的に調達することに向いていません。
大規模な貯蔵・保存が難しい
水素を保存する方法は、液化水素、圧縮水素、メタノール、アンモニアなどがありますが、これらの方法はどれもエネルギーロス(損失)が大きいため、水素は大規模な貯蔵が困難なのです。
技術開発の促進が必要
水素を利用する方法としては、燃料電池、火力発電、化学工業などがありますが、燃料電池は高価で、火力発電は二酸化炭素などの温室効果ガスを排出します。
上述したように、水素を調達・保存・利用するための技術には、まだ課題が多く残されているため、水素社会の実現には時間がかかることが予想されています。
しかし、水素はクリーンなエネルギー源なので、水素社会の実現に向けて、技術開発・技術革新を進めていくことが極めて重要です。
具体的には、水素の調達コストを下げる技術、水素の貯蔵効率を高める技術、水素を効率的に活用するための発電に関するテクノロジー、などの開発が急務です。
水素エネルギーを供給するためのインフラ整備が遅れている
水素エネルギーを安定的に供給するためのインフラ整備が遅れていることも、水素エネルギーを普及させるための課題と問題点です。
水素エネルギーを供給するためのインフラとしては、水素を生成する設備、水素を輸送する設備、水素を貯蔵する設備、水素を利用する設備、などを挙げることができます。
今後インフラ整備が進み、どこでも水素が供給できるようになれば、水素自動車普及や家庭での水素活用が加速するでしょう。
水素エネルギーに関するよくある質問
水素エネルギーについて考える際に、気になる点についてまとめました。
水素エネルギーに関連する企業は?
脱炭素社会の実現に向け水素エネルギーの実用化が急がれる中、以下のような企業が研究開発を行っています。
イワタニ
イワタニでは、国内でLNGから水素を作り、産業用や宇宙ロケット用に供給しています。
今後は、さらに大量で安価な水素生成のために、海外の安価な材料・電力量料金を利用して、大規模に低炭素水素を生成し、グローバルな液化水素サプライチェーンの構築を目指しています。
出典:イワタニ
川崎重工
川崎重工では、液化水素運搬船・液化水素コンテナ・液化水素貯蔵タンクといった、水素の流通に欠かせないインフラ整備を担っています。
中でも、液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」は世界で唯一液化水素を運搬できる船であり、世界的にも注目を集めました。造船技術だけでなく、LNG運搬船などの海上輸送における極低温技術を活かして開発を行っています。
出典:川崎重工
旭化成
旭化成は、国内での世界最大級の水素製造装置開発を目指しています。
2020年3月、国は世界最大級となる10MWの水電解装置をそなえた「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」の運転を開始しています。その水電解装置を開発したのが旭化成です。
低コストで大量生産に適応しやすい「アルカリ型水電解装置」の更なる開発を進めており、今後はコスト削減にも取り組む計画です。
出典:旭化成
水素エネルギーが実用化されるのはいつ?
水素エネルギーはすでに、燃料電池自動車や発電燃料として利用されており、実用化されていると言えます。
令和5年6月に作成された資源エネルギー庁の「水素基本戦略」では、「現状の2030年に最大300万トン/年、2050年に2,000万トン/年程度の水素等導入目標に加え、新たに1,200万トン/年程度(アンモニアを含む)の目標を掲げる。 」としています。
今後も官民が手を取り合って水素事業が進むと考えられ、さらなる水素エネルギーの躍進が期待されます。
家庭で水素エネルギーを使うことができる?
家庭用燃料電池「エネファーム」を使用すれば、家庭で水素エネルギーを利用できます。
エネファームは、家庭に供給される都市ガス(LNG)から水素を取り出し、空気中の酸素を反応させて発電を行います。LNGを燃やして発電するよりも、CO2排出量が抑えられ、発電効率も高く、一緒にお湯を沸かすことも可能です。
まとめ
水素エネルギーは次世代のクリーンエネルギーとして人々の大きな期待と注目を浴びています。水素エネルギーは、二酸化炭素などの温室効果ガスの発生を抑制できたり、地球上に存在するさまざまな資源から生成することができたり、といったメリットがあります。
ただし、コストが高かったり、まだ認知度が低かったり、というデメリットもあります。現実的には徐々に水素エネルギーの利用は広がってきています。より広く利用してもらうためには、水素を調達・保存・利用するための技術開発や水素ガスを供給するためのインフラ整備の促進が必要になります。
参考文献:
・「水素エネルギーとは?」―水素が注目される理由―
・次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?
・水素はなぜ注目されている?
・水素エネルギーとは?メリット・デメリットや危険性などの課題と将来性
この記事を書いた人
ikebukuro