水素自動車の仕組みとは?実は環境に悪いといわれるデメリットや将来性について解説
- 公開日:2024.12.11
- 更新日:2024.12.11
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環境に良い「未来の乗り物」として期待されていながら、日本国内では様々な課題があるために様々な識者から「普及しない」とまでいわれているのが、水素自動車(燃料電池自動車)です。ガソリン車に取って代わる規模ではないものの、電気自動車(EV)の生産・販売台数は年々増加しています。
それに対して燃料電池自動車は商品化こそされているものの未だ研究・開発段階にあり、補給施設の建設も進んでいないことから、日本国内ではほぼ見る機会がありません。
しかしそれでも水素自動車が注目されているのは、環境に悪いとされているガソリン車やEVと比較して明確なメリットがあるためであり、政府も海外と開発協力のための支援関係を結ぶなど、確実にプロジェクトは進められています。
そこで今回は、EVが普及しはじめている裏で、改めて注目されている水素自動車(燃料電池自動車)の基本的な仕組みやメリット・デメリット、さらには日本国内での普及に関する課題や将来性についても、詳しく解説していきます。
目次
水素自動車の仕組みとは
(引用:燃料電池自動車(FCV)のしくみ – 水素・燃料電池実証プロジェクト -JHFC)
水素自動車とはその名の通り水素を燃料として走る自動車です。ガソリン車が文字通りガソリンをシリンダー内で燃焼させることで動力を得ているのに対して、水素自動車には水素で燃焼を起こせる「水素エンジン」が搭載されています。
また、水素と酸素の化学反応によって、車を動かすためのモーターの動力を得る「燃料電池自動車」もあります。
- ガソリン車:ガソリンを「燃焼」させる
- 水素エンジン自動車:水素を「燃焼」させる
- 燃料電池自動車:水素と酸素で「発電」する
近年、海外を中心に普及し始めている「電気自動車」との違いは、燃料電池が自ら「発電」をしているという点です。電気自動車に搭載しているのはあくまで「蓄電池」であるため、一般的には(現代の技術では)ガソリン車のように頻繁に充電しなければなりません。
その点で水素と酸素の化学反応により「発電」ができる水素自動車には電気自動車と比較して「優秀」だと言える点がいくつもあります。
水素自動車は環境に悪い?日本で普及しない理由
日本自動車会議所の統計(画像)によると、現在日本国内における燃料電池自動車の普及率は、わずか「0.02%」に留まっており、2022年には「848台」しか売れていません。
なぜ日本では水素自動車(燃料電池自動車)が普及しないのでしょうか。
水素自動車が日本で普及していない理由を2つ説明していきます。
理由①価格がガソリン車よりも(まだ)高い
水素自動車は確かに未来の車ですが、特に消費者から見たときの性能と価格のバランスが取れていない現状があります。たとえばトヨタの燃料電池自動車である新型「MIRAI」は新車で700万円から800万円します。
新車としてはめずらしくない価格帯ですが、ガソリン車で「燃費が良い普通車」という条件で探すと、比較的高ランクの普通自動車やハイブリッド車が300万円~500万円程度で買えますし、軽自動車なら200万円もせずに新車が買えてしまいます。
- プリウス(トヨタ):275万円~460万円
- アルファード(トヨタ):540万円~872万円
- N-BOX(ホンダ):146.9万円~237.6万
- タント(ダイハツ):135.3万円~199.1万円
- アクア(トヨタ):199.7万円~259.8万円
この価格差を考えると、水素自動車によほどのアドバンテージやメリットを見いだせる人でない限り、お金に余裕のある人でも手を出しづらいのが現状です。
理由②水素ステーションが少なすぎる
水素自動車は定期的に水素を補給するために「水素ステーション」を利用する必要がありますが、2023年5月時点では全国に「167箇所」しかありません。
ガソリンスタンドが約「28000箇所」、電気自動車の充電スポットでも約「22000箇所」あることを考えると、圧倒的に数が少ないことが分かります。
また経済産業省の資料によると、水素ステーションは1台建設するだけで約「5〜6億円」程度の費用がかかります。国の補助金を含めても、ガソリンスタンドの6~7倍の費用がかかるのです。この建設費用に関しては国をあげて低コスト化を実現し、3億円程度に下げようという試みが行われていますが、実現時期については定かではありません。
水素自動車(燃料電池自動車)のデメリット
次は水素自動車のデメリットについて、以下の2つの点をそれぞれ解説していきます。
- 生産時の環境負荷問題が解決していない
- 航続距離は燃費の良いガソリン車よりも短い
生産時の環境負荷問題が解決していない
水素自動車は走行時こそ二酸化炭素を排出しないため「エコ」ですが、製造時には二酸化炭素を排出しているため、本質的には「エコ」を実現していないと指摘されることもあります。
国立情報研究所の資料によると、水素自動車に使う水素を製造する段階でメタンガスなどの天然ガスと水蒸気を反応させているため、二酸化炭素を排出しています。製造方法によっては二酸化炭素を排出せずに製造することも可能ですが、そうなるとコストの問題が発生するようです。
航続距離は燃費の良いガソリン車よりも短い
最新の水素を用いた燃料電池自動車は「850km」の航続時間を実現していますが、現在ではハイブリッド車を中心に「1000km」または「1500km」を超える航続時間を実現している車種も少なくありません。
水素自動車は電気自動車よりも長い航続時間を実現できますが、ガソリン車と比較するとアドバンテージを得られていないのが現状です。航続時間は短いチャージ時間でカバーできますが、そもそも日本国内に補給地点である水素ステーションがほぼない、という課題もあります。
水素自動車(燃料電池自動車)のメリット
次は水素自動車(燃料電池自動車)のメリットについて解説していきます。
水素自動車(燃料電池自動車のメリットは下記の4点です。
環境負荷が低い
1つ目のメリットは環境負荷が低いという点です。ただし、水素自動車が環境に良いことを説明する前に、そもそも「環境負荷が高い」とはどういうことなのかを解説します。
環境負荷が高い車とは?
一般的にガソリン車は環境負荷が高い車だといわれています。ガソリン車はガソリンを燃焼させることで動力を得ていますが、その過程で多量の二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)を排出します。
二酸化炭素は代表的な温室効果ガスであり地球温暖化の原因となります。人を含めた生物の呼吸でも二酸化炭素は排出されますが、ごく微小な量であり環境負荷への影響はほぼないとされています。
高知工科大学の研究によるとガソリン車は普通乗用車で1kmあたり「179g」、軽自動車で1kmあたり「95g」の二酸化炭素を排出しています。
二酸化炭素の排出源をいくつかの分類に分けた中の「運輸部門」では排出の9割を自動車が占めており、さらにその中の5割強を一般の人が利用する乗用車が占めているとされています。
端的に表すなら、自動車は人の呼吸とは比較にならないほどの規模で二酸化炭素を排出している、というわけです。世界的に見ても、ガソリン車が占める二酸化炭素の排出量は他の分野に対して高いため、少しでも環境負荷を下げるために電気や水素等を用いた次世代自動車の普及が急務となっています。
水素自動車が環境に良い理由は?
水素自動車(燃料電池自動車)はガソリン車と違って二酸化炭素のような有害物質をほぼ排出しません。
発電時に生成するのは水蒸気であるため、仮にガソリン車の多くが水素自動車に代替されるとしたら、とりわけ都市部の二酸化炭素量が下がり、環境負荷を大幅に下げることが期待されます。
エネルギー効率が良い
水素自動車はガソリン車よりも大幅にエネルギー効率が良いとされています。ガソリン・水素の、それぞれにおけるエネルギー効率を比較してみましょう。
ガソリン車はエネルギー効率が悪い
実はガソリン車は、エネルギー効率が「かなり悪い」乗り物だとされています。イエール大学の研究者によると、ガソリン車はわずか「2割」程度しか、推進力を得るためのエネルギーをガソリンから得られていないとしています。
簡単に言えば、入れたガソリンの8割が他の部分に費やされ、無駄になっているということです。
たとえば3,000円分のガソリンを入れたとします。現在の相場でいえば20リットルぐらい入れられるため、燃費の良い車であれば1回の給油で500km程度は走れます。
しかし、実際は動力として600円ほどしか使えておらず、2,400円分ほどは無駄にしていることになります。
水素自動車のエネルギー効率はガソリン車の約2倍
ガソリン車に対して、水素自動車(燃料電池自動車)のエネルギー効率は2倍程度良い、とされています。
経済産業省が平成25年度に公表した資料によると、定置用燃料電池の発電効率は「35~60%」であり、電気と熱を併せた総合エネルギー効率は「80%」を超えるとされています。
この時点での燃料電池自動車のエネルギー効率は「35%」程度であり、すでにガソリン車よりも遥かに高いです。今後の技術発展により、より高いエネルギー効率の実現が望まれます。
持続距離が長い
水素自動車は現在の電気自動車と同等か、それ以上の航続(持続)距離を達成しています。一般的な燃料電池自動車は500km程度走りますが、トヨタがすでに販売している最新の燃料電池自動車は「850km」の航続距離を達成しています。
ちなみに、電気自動車(EV)の方は現在長くても「500~600km程度」であることから、航続距離に関しても(あくまで現在は)水素自動車の方に優位性がある状況だといえます。
静音走行が可能
水素自動車は静音走行が可能です。以前の水素自動車は最新の水素自動車は燃料電池の構造上、アクセル時に普通自動車と変わらない程度のブロワー音が発生していましたが、最新車種はコンプレッサー等の部品が静音化したことなどにより、かなりの静音走行が可能になっています。
ただし現在はEV車やハイブリッド車を中心に、近くを走行していることが分からないぐらいの静音性を実現している車もあるため、水素自動車特有のメリットとは言えません。
補給時間が短い
水素自動車は一般的な電気自動車よりも補給(チャージ)時間が短いという明確なメリットがあり、ガソリン車の補給時間に迫るほどの短縮化を実現しています。
最新の水素自動車はなんと「3分」程度でフルチャージが完了してしまうため、ガソリン車の補給作業とほぼ変わらない(場合によってはガソリン車よりも早い)充填時間です。
なぜ補給時間が短いのか?
すでに解説したように、燃料電池式の水素自動車は水素を外気から取り入れた酸素を化合させることで発電し、エネルギーを作り出しています。水素自動車は専用の特殊タンクに水素を補給するだけで良いため、ガソリンと同じ速度での補給が可能なのです。
それに対して電気自動車は、どれだけ速い急速充電対応車でも、空になってからフルチャージされるまでに30分程度はかかります。急速充電に対応していなければ数時間かかることもあります。
さらにバッテリーの容量が大きくなるほど充電時間も長くなるため、この点では水素自動車の方に大きくアドバンテージがあるといえます。
水素自動車(燃料電池自動車)の将来性は?
世界的な環境問題やエネルギー問題に対処するために、環境負荷が低い電気自動車(EV)の普及が進んでいます。
日本でも環境に優しい自動車への切り替えが進みつつありますが、未だガソリン車の方が圧倒的に多いのは、街中で走行している車を見れば一目瞭然です。
特に燃料電池自動車の普及に関しては世界に対して日本が遅れを取っているため、政府の支援を得ながら日本の自動車企業が一体となって研究・開発が進められています。
現時点では水素自動車(燃料電池自動車)の普及には懐疑的な人も多いですが、今後日本が自動車産業で世界をリードしていくためには、EVだけでなく水素にも力を入れていく必要があるのは明白です。
今後水素自動車が発展していくためには、各メーカーの努力によって量産技術を確立して車両価格を下げるだけでなく、水素ステーションのようなインフラ設備の普及が急務です。
そのためにも民間の企業だけでなく、政府が率先して継続的に支援を続けることが求められています。
水素自動車に関するよくある質問
水素自動車について考える際に、気になる点についてまとめました。
水素自動車が環境に悪いと言われることもある?
水素自動車の走行中、CO2は排出しませんが、高負荷運転時には窒素酸化物(NOx)が排出されます。
窒素酸化物は大気汚染の原因物質の1つで、光化学スモッグを引き起こしたり、呼吸器疾患の原因となったりします。
自動車メーカーや研究機関で、窒素酸化物の生成量を減らしたり、還元したりできるシステムの開発が進んでいます。
水素自動車の燃料である水素は危険?
ガソリンなどその他の可燃性物質と同様、正しく扱えば安全です。
もちろん可燃性のガスなので火をつければ燃えますが、発火温度は527℃と高く、自然に発火することはありません。
また、もし空気中に漏れ出してしまったとしても、空気より軽い気体なので空気中で拡散しやすく、すぐに薄まってしまいます。
水素自動車の燃料に使われるグレー水素・ブルー水素・グリーン水素とは?
水素は作られる過程によって、グレー水素・ブルー水素・グリーン水素と分けられます。
生成方法 | CO2 | |
グレー水素 | 天然ガスと水蒸気を反応させて生成 | 排出される |
ブルー水素 | 天然ガスと水蒸気を反応背せて生成し、 排出されたCO2は回収 |
排出しない |
グリーン水素 | 再生可能エネルギー由来の電力で 水を電気分解し生成 |
排出しない |
走行時にCO2を排出しなくても、水素の生成時にCO2を排出してしまえば、クリーンなエネルギーとはいえなくなってしまいます。
今後はブルー水素やグリーン水素の割合を高めていく必要があります。
まとめ
水素自動車(燃料電池自動車)には、環境に負荷をかけにくい・エネルギー効率が高い・持続距離が長い・静音で走行できる・短時間で補給できるなどのたくさんのメリットがあります。
しかし、未だ研究・開発が進められている段階であり、多くの人が「環境に悪い」とされているガソリン車から乗り換えるには至っていません。
水素自動車では、現状で生産過程でCO2が発生するなどの環境負荷問題が未解決・航続距離がガソリン車より短いといったいくつもの課題やデメリットが指摘されています。
これらのデメリットが解決したとき、「環境に良い」だけでなく「乗る価値がある」自動車として、多くの人に受け入れられる時が来るでしょう。
この記事を書いた人
ikebukuro