合成燃料とは?デメリット・メリットや作り方、日本企業の取り組みを紹介
- 公開日:2024.12.26
- 更新日:2024.12.27
年々深刻化する地球環境問題から、合成燃料や人工石油に注目する企業が増えています。
ガソリンよりも二酸化炭素排出量が少なく、ガソリンを燃料とする車や飛行機などに使用できるため、既存の設備を活かして脱炭素に繋がると話題です。
しかし、製造コストの高さなど、乗り越えるべき課題もあります。
合成燃料を活用するためには、合成燃料の作り方やメリット・デメリットについて理解することが重要です。
合成燃料とは
合成燃料とは、e-fuelと呼ばれることもあり、二酸化炭素と水素を原材料に製造される石油代替燃料を意味します。
ガソリン・灯油など、使用用途に応じて自由に利用可能です。
合成燃料は、発電所および工場から排気されている二酸化炭素や、大気中に存在する二酸化炭素と再生可能エネルギー由来の水素として注目されているグリーン水素を使用して製造される燃料。
これまでの化石燃料と異なり、生活する上で大気中に二酸化炭素を増加させない、カーボンニュートラルな燃料として近年注目を集めています。
合成燃料のメリット
合成燃料のメリットは、以下4つです。
- 脱炭素化に繋がる
- 従来の燃料と同じように使える
- 既存の設備をそのまま使うことができる
- 化石燃料を海外から輸入する必要が無くなる
脱炭素化に繋がる
1つ目のメリットは、脱炭素化に繋がることです。ポルシェによると合成燃料が出す二酸化炭素はとても少なく、ガソリンと比較すると85%もの二酸化炭素の削減が可能と公表されています。
電気自動車の場合でも、バッテリーを製造する過程で二酸化炭素が発生し排出されるため、油田から車輪を駆動させるまでの過程で見た場合、電気自動車と合成燃料の二酸化炭素排出量は同じレベルです。
また、窒素酸化物や粒子状物質の排出量も非常に少なく、ガソリンと比べても有害な成分が少ないです。このようなことから、合成燃料は脱炭素化に繋がる燃料として期待されています。
脱炭素化とは
脱炭素化とは、二酸化炭素の排出量をゼロにすることです。化石燃料を再生エネルギーに移行したり、排出されてしまった二酸化炭素を回収・吸収したりといった取り組みがされています。
二酸化炭素の排出量と回収・吸収量が差し引きゼロになり、実質的に二酸化炭素排出量がゼロになった状態を「カーボンニュートラル」と言います。日本は2050年までのカーボンニュートラル実現を目指しています。
従来の燃料と同じように使える
2つ目のメリットは、従来の燃料と同じように使えることです。二酸化炭素と水素により製造される合成燃料は液体のため、これまでの灯油やガソリンといった燃料に非常に近い成分で構成されています。
そのため、エネルギーの密度が高く、これまでの燃料と同様に使用できるメリットがあります。また、持ち運びでき、常温常圧の環境で長期間の備蓄も可能なため、急遽必要になった場合でも利用可能です。
特に、近年増加している電気自動車におけるバッテリーの残量や、充電問題が不安になる大雪や停電、災害などが発生した環境下で役立ちます。
既存の設備をそのまま使うことができる
3つ目のメリットは、既存の設備をそのまま使うことができることです。合成燃料は、現在すでに使っている内燃機関で使用できます。
近年では、電気自動車や水素自動車が普及しつつありますが、動力源を電気や水素エネルギーに変えることが困難なモビリティや製品も存在します。理由は、現在使われている灯油やガソリンといった燃料とエネルギーの密度が大きく異なるからです。
大型の車や飛行機などを液体燃料と同レベルの距離を移動しようと思うと、液体燃料よりもはるかに大きい容量の電池や、水素エネルギーが必要になります。
化石燃料を海外から輸入する必要が無くなる
4つ目のメリットは、化石燃料を海外から輸入する必要が無くなることです。合成燃料は、石油や天然ガスといった限りのある自然資源を頼らない代替エネルギーです。
科学の力を駆使して作られる合成燃料は、地球に与える負荷が少ない持続可能エネルギーとして注目されています。石油や天然ガスといった化石燃料を輸入に頼っている日本は、輸送費などの影響も大きく受け、国際状況次第では入手できなくなるリスクも考えられます。
そんな中、化石燃料を海外から輸入しなくて良いことは、今後を考えたうえでも非常にメリットです。
合成燃料の問題点・デメリット
合成燃料を活用する上での問題点は、以下2つです。
- 製造コストが高い
- 製造効率が悪い
製造コストが高い
1つ目の問題点は、製造コストが高いことです。合成燃料の製造にかかるコストは、ガソリン価格と比べ約2〜5倍かかると言われています。
経済産業省が公表した内容では、合成燃料の製造におけるコストは、1リットルにつき約300〜700円と公表されているため、今後いかに合成燃料の製造コストを削減するかが問題となっています。
製造コストと製造効率の向上がないと、一般的に普及する販売単価には至らず需要の拡大は難しいでしょう。
製造効率が悪い
2つ目の問題点は、製造効率が悪いことです。合成燃料を製造するプロセスでは、一部のエネルギーが失われてしまいます。
そのため、総合的に見た際に、化石燃料に比べてエネルギー効率が低くなってしまうことがあります。しかし、研究開発により技術が向上したり、再生可能エネルギーを上手く活用したりすることで、エネルギー製造効率の向上が期待されています。
また、日本ではグリーンイノベーション基金事業やNEDOの交付金事業によって、FT合成プロセスの大規模化や効率化や合成燃料の低コスト化に向けた直接合成や共電解を組み合わせたFT合成の開発が進んでいます。
合成燃料の作り方
CO2とH2Oに分けて作り方を解説します。
CO2の作り方
CO2の作り方は、以下の通りです。
生物資源(バイオマス)を燃やして作る
生物資源(バイオマス)を燃やすことでCO2を作れます。
年々深刻化する地球温暖化に対して、バイオマス燃料が化石燃料に代わる燃料として注目されています。
この生物資源を燃やした場合にも、化石燃料と同じようにCO2が必ず生じます。
発電所・工場の排気ガスから回収する
工場や発電所といった大きい規模の汚染点源から排出される排気ガスにはCO2が含まれます。
そのCO2を回収することでCO2が入手可能です。
また、この方法でCO2を作成し合成燃料に活用することで、重工業から発生したCO2が大量に大気中に放出されるのを防げ、環境への負荷も軽減できます。
DAC法を使って直接大気から取り出す
DACとは、ダイレクト・エア・キャプチャーの略称であり、大型の機械を使用することでCO2濃度が約0.04%の大気中からCO2を分離または回収する技術のことです。
世界における平均気温の上昇幅を1.5℃までに抑える「パリ協定」の目標を実現するためには、CO2の排出を削減するだけでは足りず、大気中に存在するCO2を回収する必要があると言われています。
DACはその課題を解決する方法としても期待されています。
工場や石炭火力発電所などから発生しているCO2を、大気中に放出してしまう前に回収する技術である「CCS」に比べ、DACは経済活動にも制約されず排ガスと比べても低い濃度の大気中から多くのCO2を直接回収できます。
H2Oの作り方
H2Oの作り方は、以下の通りです。
化石燃料から取り出す
化石燃料から水素を作成する際には、原油に含まれているナフサや、天然ガスに含まれているメタンなどの水素と炭素で構成されている物質を、水蒸気と化学反応させることで一酸化炭素・二酸化炭素と水素を発生させます。
その発生した気体から一酸化炭素と二酸化炭素を除去することで、純粋な水素を作成します。
電解法を利用して作る
水を電気で分解する電解法により水素を生成する方法もあります。
この電解法を実施する際に、再生可能エネルギー由来の電力を活用することで、グリーン水素の生成が可能です。
しかし、水を電気で分解するためには、多くの電力量が必要なため、可能な限り安い電力を使えれば、電解法にかかるコストを削減できます。
また、電解を実施する水電解装置の開発が進めば、装置自体にかかるコストを削減させることも重要な課題です。
合成燃料「e-fuel」の認定基準
合成燃料「e-fuel」の認定基準は、以下3つです。
- ライフサイクルにおける温室効果ガスを排出する量が軽油と比べて少ないこと
- 公的な品質の規格に合っていること
- 油脂から生成された炭化水素からできている
バイオディーゼル燃料:廃食用油などの廃棄物や副産物、または微細藻類における油脂の質量割合の合計が7割を超え、バイオマス原料が持続可能なこと
GTL燃料:燃料を使用する際の窒素酸化物や粒子状物質を排出する量が、軽油と比べ少ないこと
このように、合成燃料として認定されるためには、上記の基準を満たす必要があります。
合成燃料の活用方法
ここからは、合成燃料の活用方法を3つ紹介します。
ガソリン車
もっとも多くの合成燃料が使われる見込みがあるのが、ガソリン車。液体の合成燃料は、化石燃料で製造される液体燃料と同じくらいの高いエネルギー密度も持っています。
合成燃料は、石油や天然ガスなどのように海外からの化石燃料に依存していません。CO2・H2で製造できるので、日本のような化石燃料を多く国外に依存する国でも製造可能なのがポイントです。
合成燃料はガソリンと成分が近いため、ガソリン車に活用できます。
航空機
航空機では、微細藻類や木材チップなどを原料とする「バイオジェット燃料」が使われはじめています。合成燃料であれば、原料が安定的に調達でき、大量生産できるというメリットがあります。
合成燃料はCO2と水素から工業的に大量生産でき、持続可能な航空燃料となる可能性があるでしょう。
ガソリンスタンド
合成燃料とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料のことで、「人工的な石油」も言われています。石油は埋蔵量が限られている化石燃料で、 燃やすと二酸化炭素などの温室効果ガスを出してしまいます。しかし、合成燃料はCO2を使って人工的に作られるため、カーボンニュートラルで、持続可能な燃料です。
ガソリンスタンドで合成燃料だと知らずに給油する、といった時代もやってくるかもしれません。
合成燃料に関する日本企業の取り組み
日本企業の取り組み事例を2つ紹介します。
ENEOS
ENEOSは脱炭素社会を実現するために、次世代型のエネルギー事業に取り組んでいます。
合成燃料は、原料で再エネ由来の水素と二酸化炭素を使うため、原料の製造から製品を使うまでの製品ライフサイクルで二酸化炭素を排出する量が削減できるカーボンニュートラル燃料です。
ENEOSは、合成燃料に関する技術開発を脱炭素社会の実現に向けた重要な取り組みとしています。
液体燃料は、電池などと比べ、一定の体積や重量に存在するエネルギー量が大きいことが特徴です。
液体燃料の合成燃料は、すでに存在する設備を使えるだけでなく、電化や水素の活用が困難な領域でも使えることから将来性が注目されており、合成燃料の開発は、自動車や航空機、船舶といったさまざまな業界で脱炭素社会に貢献できます。
ENEOSは今後、小規模プラントでの検証を始め、徐々に規模を大きくし、大規模なパイロットプラント検証により、プロセス全体における早期の技術確立を目標に掲げています。
合成燃料のコストで大半を占めている水素と二酸化炭素のコストを削減するために、反応工程それぞれの性能アップと、高度なリサイクル技術を適用させることで全体的な高効率化に挑戦し、最終的に液体燃料の収率80%以上を目指しています。
参考:ENEOS
トヨタ自動車
合成燃料は、欧米では積極的に研究が進められており、2050年の二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「グリーン成長戦略」に、ガソリン価格よりも低いコストを実現させることが明記されました。
主に大型車における利用が考えられていますが、すでに存在している内燃機関や燃料供給におけるインフラを使えるため、普及できるコストの実現が可能となれば、乗用車で使われることも十分に考えられます。
トヨタ自動車は、社長の豊田章男が、水素エンジンを載せた「カローラ」で24時間耐久レースに出場するなど、脱エンジンに向けた世界の流れとは一線を画す動きです。
合成燃料も脱ガソリンに向けた取り組みの1つであり、豊田氏は自分が会長を務めている日本自動車工業会の会見において合成燃料について言及し、目的が電動化ではなく脱炭素に向けた取り組みと主張しています。
日本のエンジン+モーターの複合技術に合成燃料を組み合わせることで、大幅な二酸化炭素の削減が可能です。
さらに、車の代替には15年必要とし、現在販売している車の二酸化炭素を削減するためにも合成燃料が有効と強調しています。
参考:トヨタ
ホンダ
ホンダは、1981年からスタートした「本田宗一郎杯 Honda エコ マイレッジ チャレンジ」、略して「エコマイ」を行っています。具体的には、スーパーカブのエンジンをベースにマシンを自作し、1リッターの燃料で何km走れるかという燃費性能を競う大会です。
この大会のことを別名「世界一エコな大会」と釘打っています。2023年からは、CN燃料の試験導入されているのが特徴。
CN燃料とは、植物や化学的回収を通じて、大気中から集めた二酸化炭素(CO2)を基に再生可能エネルギーを用いて作られた燃料のことです。このCN燃料は、生成から使用まで大気中のCO2は増えない燃料として注目されています。
ほかにも、ホンダは大気中から回収したCO2を水素と反応させて、航空機事業「ホンダジェット」の合成燃料として利用する技術「ダイレクトエアキャプチャー(DAC)」を開発。CO2をライフサイクル全体でのカーボンニュートラルに利用する技術の研究も進めています。
参考:ホンダ
合成燃料に関するよくある質問
合成燃料についてよくある疑問点をまとめました。
合成燃料とガソリンとの違いは?
合成燃料とガソリンの違いには、以下のようなものがあります。
合成燃料 | ガソリン | |
原料 | 二酸化炭素と水素 | 原油 |
原料産地 | 国産 | 輸入 |
安定性 | 高い | 世界情勢で変動 |
CO2排出 | なし | あり |
コスト | 高い | 安い |
用途 | 自動車・航空機など |
合成燃料は二酸化炭素と水素を原料に作られ、使用時に排出する二酸化炭素がとても少ないため、ガソリンよりも環境に優しい燃料です。
また、合成燃料の原料は国産で賄えるため、世界情勢の変化によって価格が変動する可能性が低く、ガソリンよりも安定性があります。
ただし、製造コストはガソリンよりも高く、まだ実用化に至っていません。
合成燃料・人工石油の実用化はいつ?
資源エネルギー庁「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 2023年 中間とりまとめ」のロードマップでは、2030年代に導入拡大・コスト低減、2040年までに商用化、2050年までにガソリン価格以下のコスト実現を目指すとなっています。
それまでに、製造技術の高効率化や運転検証などのステップがありますが、他国との開発競争に負けないようスピード感をもった実用化への取り組みが求められます。
参考:合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会2023年 中間とりまとめ 資源エネルギー庁
合成燃料でコスト10円の「人工石油」とは?
「人工石油」とは、大阪の「サステイナブルエネルギー開発株式会社」が発表しているもので、ここまで紹介してきたe-fuelとは別物です。
その生成の仕組みは次の通りです。
同社によると、特殊な光触媒を用いて、水と大気中のCO2からラジカル水(化学反応を起こしやすい活性化水)を作り、ラジカル水に大気中のCO2と種油(軽油、重油、灯油など)を反応させることで、種油と同じ組成である合成燃料を連続的に生成するとされています。
大阪市が実験に協力したことで注目を集めましたが、現在のところ信憑性はあまり高くなく、今後の裏付けが待たれます。
合成燃料の生成に欠かせない水素エネルギーとは?
水素エネルギーは、水素を燃やして得られるエネルギーのことです。燃料電池に使用したり、発電所の燃料とすることで、二酸化炭素排出量をゼロにできます。
現在日本では、水素サプライチェーンの構築を進めており、大規模製造施設や移送手段の確保が行われています。
水素の単価が下がれば、合成燃料の単価も下がりますので、同時に技術開発が進むことが期待されます。
まとめ
合成燃料は、二酸化炭素と水素を原材料に製造される石油代替燃料です。
合成燃料には、脱炭素化に繋がったり、従来の燃料と同じように使えたりといったメリットがある一方、製造コストが高いことや製造効率が悪いといったデメリットもあります。
脱炭素社会の実現に向け、合成燃料を活用したいと思われている方は、合成燃料の作り方や、実際に取り組んでいる日本企業の事例を参考に、自社に適した取り組みを考えてみましょう。
この記事を書いた人
ikebukuro