GHGプロトコルとは?取り組むメリット・デメリットや手段について徹底解説
- 公開日:2024.12.12
- 更新日:2024.12.12
GHGプロトコルとは、事業者がGHG(温室効果ガス)の排出量を算出し、報告するときの国際的な基準です。
近年、地球温暖化が原因と考えられる異常気象や海面上昇が相次いでいます。環境問題は誰もが考え、取り組むべきことです。
とりわけ温室効果ガスの排出主体である事業者は、「GHGプロトコル」への理解を深めることが必要不可欠な時代となっています。
環境問題への取り組みは社会的な地位や投資家からの評価にもつながるため、改めてGHGの基本や算定原則、取り組むメリットや具体的な施策内容について理解していきましょう。
目次
GHGプロトコルとは
GHGプロトコルとは、2011年10月に国際的に定められた「温室効果ガス削減の基準」のことです。
元々は1998年にWBCSD(世界環境経済人協議会)やWRI(世界資源研究所)により設立された団体「GHGプロトコルイニシアチブ」が策定した基準であり、日本も例外なく準拠する必要があります。
GHGプロトコルとサプライチェーン排出量の関係
出典:資源エネルギー庁
温室効果ガスを主に排出するのは事業者(企業)ですから、事業者は環境保全のため積極的に温室効果ガス(以下「GHG」)を削減する責任があります。
しかしGHGを削減するということは、単に「工場から排出されるCO2の量を減らせば良い」というような、簡単な問題ではありません。
一つの商品が生産され販売されるという「結果」には必ず「過程」が伴います。
商品を作るためには材料の調達が必要ですし、製造した後は在庫を正しく管理し、消費者が手に取れるように市場へ流通させる必要があります。
この一連の流れのことを「サプライチェーン」といいますが、温室効果ガスは工場での製造時だけでなく、サプライチェーン全体において発生します。
だからこそGHG削減は「サプライチェーン排出量」という全体的な括りで考え、対策していく必要があるのです。
- ✕:工場から排出されるGHGを減らせば問題は解決する
- ◯:調達・製造・在庫管理・流通・販売すべての過程でGHGを削減する必要がある
ちなみにサプライチェーン排出量は3つのグループ(Scope:スコープ)に分けられ、それぞれのグループごとに異なる基準があります。この点はまた後ほど解説します。
サプライチェーンとLCA(Product Life Cycle Assessment)との違い
サプライチェーンと混同されがちな「LCA(Product Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)」という言葉があります。
サプライチェーンが単なる「過程」を指すのに対して、LCAはサプライチェーンという「過程全体の排出量」でGHGの削減度合いを評価することを指します。
これには一つの商品製造における過程の排出量評価(製品のLCA)だけでなく、事業者がサプライチェーン全体の排出量を評価すること(組織のLCA)も含まれます。
LCAはサプライチェーンにおいてどのプロセスに問題があり、どこを優先して改善する必要があるか、また具体的にどのような対策をすべきか、といった点を検討するうえで重要です。
GHGプロトコルと温対法の違い
「温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)」は日本の法律です。
温室効果ガスを多量に排出する者(特定排出者)に、自らの温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することが義務付けられています。(参考:環境省)
法律ですので守る必要があり、報告をしなかったり虚偽の報告をしたりすると罰則が課せられます。
それに対し、GHGプロトコルは国際的なイニシアチブであるため、温室効果ガスの削減は義務ではありません。また、排出量の分類や計算方法にも違いがあります。
GHGプロトコルの「Scope1・2・3」
GHG削減をサプライチェーン全体で考えるとき、GHG排出量の基準は3つのスコープ(Scope)に分類されます。
この3つのスコープにおける排出量を足し合わせたものが「サプライチェーン排出量」となります。
Scope1(直接排出量)
Scope1に分類されるのは直接排出量、いわば事業者が製品を製造する過程で排出するGHGの総量です。たとえば、次のような排出が含まれます。
- 自社の工場が製造過程で化石燃料を燃焼させることにより排出されたGHG
- 自社に備え付けられている焼却炉から排出されたGHG
- 自社が運搬等に利用する車両が排出したGHG
ここで「自社」とありますが、実際はグループ企業が排出するGHGの量も同じ企業の排出量としてカウントされます。
Scope2(間接排出量)
Scope2に分類されるのは間接排出量、いわば事業者が他社から供給されるエネルギー(電力や熱など)を利用することで排出するGHGの総量です。たとえば、次のような排出が含まれます。
- 自社が電力会社から供給された電気を使用した際に排出されたGHG
- 自社が他社から供給された熱や蒸気を使用した際に排出されたGHG
電気を例に挙げると、オフィスや工場で電気を電力として「使用」しているのは確かに自社ですが、その電気を「供給」している大元は他社(電力会社)です。
他社から購入することで初めて使用できる「間接的な排出」であるため、その排出量は「Scope1」ではなく「Scope2」に分類されます。
Scope3(その他の排出量)
Scope3に分類されるのは「Scope1」や「Scope2」以外のプロセスにおける排出量、いわば仕入れ・製造・販売という製造プロセスの前後に排出されるGHGの総量です。
サプライチェーンにおける前方か後方かによって「上流」と「下流」に分類されます。
- 上流(製造の前段階):原材料の調達や輸送
- 下流(製造の後段階):消費者による製品使用や廃棄
Scope3に該当する活動は15のカテゴリーに細分化されていますが、そのうち一部の例を紹介します。
- 自社製品のパッケージングを外部委託したことで発生したGHG
- 自社の廃棄物の輸送・処理・リサイクルを外部が実施したことで発生したGHG
- 自社製品を消費者が購入し実際に利用したことで発生したGHG
- 自社が他社にリースしている資産が稼働されたことで発生したGHG
- 自社が実施した投資・運用活動により発生したGHG
- 自社の従業員が自動車で通勤または出張したことで発生したGHG
これらすべてに共通しているのは、直接的または間接的にでも、自社が行う事業の事業・製造活動による排出は含まれない、という点です。
あくまで自社の事業・製造活動に「関わった」企業・人が活動したことで排出されたGHGがカウントされます。
GHGプロトコルの算定原則
GHGプロトコルには、その正確性や信頼性を担保するために5つの算定原則が設けられています。それぞれの原則について簡単に解説していきます。
- 完全性(Comprehensiveness)
- 一貫性(Consistency)
- 正確性(Accuracy)
- 透明性(Transparency)
- 妥当性(relevance)
完全性(Comprehensiveness)
完全性とは、同じ企業だと選定された境界内であれば、どのような「GHG排出に関わる活動」も例外なく報告されるべきである、という意味です。もし何らかの理由で報告ができない活動があっても、報告できない理由が明確にされなければなりません。
一貫性(Consistency)
一貫性とは、排出量などの変化は一定期間、同じ基準・同じ計算方法で比較されるべきである、という意味です。継続的に意味のある「比較」を行う必要があるため、何らかの理由で比較基準や計算方法が変更される場合も、その理由が明確に言及されなければなりません。
正確性(Accuracy)
正確性とは、排出量の計算およびそれを行うシステムには不確実性がなく、常に正確であるべきだ、という意味です。これは排出量の報告そのものを意味あるものとするために必要不可欠であり、間違いを引き起こしているシステムエラー等があれば、速やかに改善されるべきです。
透明性(Transparency)
透明性とは、排出量の計算および報告は客観的にみても明確に正当だといえる監査等を経て実施されるべきである、という意味です。監査手順は首尾一貫した方法が用いられるべきであり、関連する問題についての資料やデータも公開されるのが望ましいです。
妥当性(relevance)
妥当性とは、事業者の事業活動におけるGHG排出量を反映する境界に関して、それがユーザー意思決定の要求に沿った妥当な定義付けがなされているべき、という意味です。これには組織の構造や、事業の背景について理解することが含まれます。
企業がGHGプロトコルを採用するメリット
事業者がGHGプロトコルに取り組むことで得られる、3つの明確なメリットについて解説していきます。
温室効果ガスを削減できる
GHGの排出主体である企業がGHG削減に真剣に取り組むことで、どれだけの量の温室効果ガスが削減可能なのか明確になりますし、社会的責任を負ういち企業として実際にGHGを削減し、社会的な評価を得ることができます。
事業全体の排出量を把握できる
GHGプロトコルにより把握できる排出量は事業全体の排出量、または「サプライチェーン全体の総排出量」です。そのためGHG大幅削減につながる、明確で現実的に達成可能な目標・指針を立てることができます。
投資家へのアピールになる
近年では、規模が大きい企業ほど環境問題への積極的な取り組みが必須となっています。これは単に社会的評価を高めるだけでなく、自社に投資してくれる投資家へのアピールにも繋がります。
GHGプロトコルが投資家へのアピールになる一つの大きな理由は「ESG投資」の存在です。ESG投資とは、企業が取り組む環境・社会・ガバナンスといった要素への評価により投資先を選ぶことです。
とりわけ「E(環境)」への取り組みが積極的な企業は持続可能性が高いと評価され、リターンを得られる期待値も高いとされています。
そのため企業はGHGプロトコルに真剣に向き合い、取り組みを公表することで、ESG投資を行う投資家の目を向けることができるのです。
企業がGHGプロトコルを採用する際の課題点
メリットの多いGHGプロトコルへの取組ですが、企業が導入するには課題もあります。
- 費用がかかる
- 専門知識が必要
- 継続的な管理が必要
費用がかかる
GHGプロトコルに取り組むには、測定機器の購入や、管理するシステムの導入などに初期投資が必要です。
また、GHGプロトコルを算出して情報開示するための人材も用意しなければなりません。
このような初期費用や人件費は、中小企業にとって大きな負担となることがあります。
国の補助金を活用したり、段階的に導入したり、負担を軽減する計画を立ててください。
専門知識が必要
GHGプロトコルに即した温室効果ガス排出量の算定には、専門知識が不可欠です。
社内での人材育成か、外部コンサルタントの利用が必要でしょう。
環境省や経済産業省では、算定を支援するツール・サービスの開発・提供や、セミナーの開催を実施していますので、上手く活用してください。
継続的な管理が必要
GHGプロトコルは継続的に排出量を監視・算定・報告・改善を行う必要があります。
そのため、コンサルタント費用や人的リソースも継続的に用意する必要があります。
1度だけと考えず、計画的に続けて取り組んでいけるよう準備を行いましょう。
GHG排出量の測定と報告方法
環境省によると、GHG排出量は次の計算式で求めるとしています。
- GHG(温室効果ガス)排出量 = 活動量 ✕ 排出係数
この「活動量」とは、GHGの排出を伴う活動規模の大きさを表す指標であり、「排出係数」とは排出活動ごとに変わる活動量のことです。実際に排出量を算定する際の流れは、次のとおりです。
- 排出活動の抽出:事業全体でのGHG排出を伴う活動をすべて抽出
- 活動ごとの排出量の算定:抽出された活動ごとに排出係数を乗算
- 排出量の合計値の算定:活動ごとに算定した排出量を、温室効果ガスごとに合算
- 排出量のCO2換算値の算定:排出量を二酸化炭素(CO2)の単位に換算
4の単位換算では、次の式を用います。
- 温室効果ガス排出量(tCO2) = 温室効果ガス排出量(tガス) ✕ 地球温暖化係数(GWP)
上記の手順で排出量を求めることができますが、これはあくまで基本的な流れです。排出係数の詳細等も含めて、環境省が公開している資料を必ず確認する必要があります。
排出量の算定が完了したら、報告書を所管の省庁に提出します。報告するガスの種類によって報告書の種類が以下のように変わります。
- エネルギー起源CO2:定期報告書(省エネ法)
- エネルギー起源CO2以外の温室効果ガス:温室効果ガス算定排出量等の報告書(地球温暖化対策推進法)
提出期限は特定事業所排出者なら7月末まで、特定輸送排出者なら6月末までとなります。未報告や虚偽報告は罰則の対象となるため注意が必要です。
GHG削減プロジェクトにはどのようなものが挙げられる?
GHGプロトコルはただ掲げるだけでなく実際に取り組まれることで初めて意味をなします。次はGHGを削減するためのプロジェクトにはどのようなものがあるのか、5つの具体例についてそれぞれ解説します。
再生可能エネルギーの導入
太陽光発電や風力発電、バイオマス発電による再生可能エネルギーを導入することは、GHG削減に寄与するもっとも分かりやすい方法です。
単にCO2の排出量を削減できるというメリットだけでなく、窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質の削減、エネルギー自給率の向上、多様化による災害へのリスクヘッジ向上など、様々な利点があります。
エネルギー効率を向上する
GHGを実質的に削減するためには、排出量を減らすだけでなくエネルギーの供給・消費効率の向上も必要不可欠です。どれだけ太陽光発電や風力発電の発電効率が上がっても、使う量が増えれば実質プラマイゼロ、どころか環境負荷的にはマイナスになる可能性があるからです。
実際のところ、GHGの削減とエネルギー効率の改善は両立が可能です。日本では2030年度までにエネルギー消費効率を2021年と比較して35%以上改善するという目標を立てており、これに伴う施策は消費削減や低炭素化と同時に進められています。
森林保護や植林
GHG削減においては、森林保護や植林は緑を守るために欠かせない取り組みです。植物はCO2を取り込むだけでなく、大量の炭素を蓄えることができるからです。
実際のところ、この取り組みが効果が目に見える形で表れるには数年から数十年を必要とします。しかし日本が2050年を見据えてカーボンニュートラルを実現するためには「排出量の削減」だけでなく、森林保護や植林による「吸収量の増加」が必須なのです。
廃棄物処理のプロセス改善やリサイクルの促進
埋立場に埋め立てられた廃棄物はGHGの一種であるメタンガスを放出するため、廃棄物処理のプロセス改善や、廃棄物自体の量を削減するためのリサイクル促進が必要です。
この問題を解決するために、廃棄物から排出されるメタンガスを地中で回収し、より温室効果の低い物質として放出するなどの具体的なプロジェクトが、企業を中心として進められています。
持続可能な交通手段の導入
路面電車や鉄道などの「公共交通」を積極的に利用することは、GHG削減に貢献します。それらの交通手段もGHGを排出してはいますが、自動車よりも輸送分担率がはるかに高いため、環境負荷も少ないのです。
欧米を中心として、徐々に電気自動車等の環境負荷が少ない車のシェアが増加していますが、未だに大半の人は環境負荷が比較的高いガソリン車を利用しています。
ここで重要なのは「自動車を使わない」ことではなく「依存しない」ことです。そのため、より多くの人が利用しやすい路面電車の活用や、自転車専用の道路を設けるなど「選択肢を広げる」ための具体的な施策が求められています。
GHGプロトコルに利用できる環境価値
GHGプロトコルにおける証書とは、事業者が再生エネルギー電力を外部から調達し、それを実際に「使用した」ことを証明できる書類のことです。GHGプロトコルに利用できる証書は次のとおりです。
利用できる証書 | 利用できない証書 |
再エネ電力由来J-クレジット 再エネ熱由来J-クレジット グリーン電力証書 グリーン熱証書 非化石証書 |
省エネ他J-クレジット JCMクレジット ボランタリークレジット |
左側の利用できる証書はすべて、GHGプロトコルのイニシアチブである「CDP」「RE100」「SBT」「TCFD」等のうちいずれかに準拠しているため、証書として利用できます。
逆に証書として利用できないクレジットは、削減量算定による認証を受けた「再エネJ-クレジット」を除き、GHGプロトコルでは使用できません。
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まとめ
環境負荷を軽減し、カーボンニュートラルを実現するためのGHGプロトコルに関して、G事業者は積極的に関わることが求められています。
それは企業として地球を守ること、そして自社の信頼性や社会的地位を守り、文字通り「持続可能な社会(会社)」を形作ることにつながるでしょう。
この記事を書いた人
ikebukuro