地熱発電の仕組みとメリット・デメリットをわかりやすく解説!日本で普及しない理由は?
- 公開日:2025.03.10
- 更新日:2025.03.19

脱炭素社会が世界の国々の目標となっている現在において、風力発電や水力発電、太陽光発電などの自然界に存在するエネルギーを利用した発電方法が注目されています。
このような再生可能エネルギーを利用した発電方法はCO2を排出しないだけではなく、自然にも優しいというメリットがあります。
地熱発電も、この自然に存在するエネルギーを利用して発電を行う方法です。
地熱を含めた自然に存在するエネルギーは、別名再生可能エネルギーと呼ばれ、石炭や石油、天然ガスなどの埋蔵量に限りがある化石エネルギーとは異なり、地球資源の一つとして常に自然界に存在するエネルギーです。
再生可能エネルギーの特徴は、地球上のどこにでも存在する、二酸化炭素を増加させない・排出しない、無くなることがないという3点です。
この記事では再生可能エネルギーを利用した発電方法の中から、「地熱発電」について解説していきます。
目次
地熱発電とは?仕組みをわかりやすく解説
参考:経済産業省
地熱発電とは、地球の中心から発生している地熱という熱を地中の奥深くから取り出し、水を沸騰させ生じた蒸気や、地中に存在している蒸気を利用してタービンを回転させ発電する方法をいいます。
また、地表から地熱貯留層まで井戸を掘ることでそこに溜まった高温・高圧の蒸気や熱水を取り出して発電することでもあります。
火力発電では化石燃料を燃焼させることで蒸気を発生させますが、地熱発電の場合は地球自体がボイラーの役目をしているといえるでしょう。
現在の技術力で実際に地熱発電を行う方法は、火山や天然の噴気孔、温泉、変質岩、硫気孔などがある、地熱地帯と呼ばれる地域の深さ数キロメートルのところに存在する1,000℃前後のマグマだまりの熱を利用し、発生させた蒸気を利用してタービンを回転させて行います。
日本の地熱発電のポテンシャルは世界3位
日本は地熱発電のポテンシャルにおいて、世界で3位に位置しています。これは、地熱資源が豊富であることを示しており、特に火山活動が活発な地域が多い日本においては、地熱エネルギーの利用が期待されています。
理由としては、日本には約100箇所以上の地熱発電所が存在し、主に北海道・東北地方・九州地方に集中しています。これらの地域は、火山帯に位置しており、地熱エネルギーの開発に適した条件が整っているからと言えるでしょう。
また近年、日本政府は、再生可能エネルギーの導入を促進する政策を進めており、地熱発電のさらなる開発が期待されています。技術革新や資源調査の進展により、未開発の地熱資源の利用が進むことで、地熱発電のポテンシャルを最大限に引き出すことが可能です。
地熱発電は2種類ある
地熱発電には、フラッシュ発電法以外にもうひとつバイナリー発電法とがあります。
ここでは、2種類の地熱発電の発電方法について解説します。
フラッシュ発電方式
フラッシュ発電方式とは、別名蒸気発電方式とも呼ばれる地熱発電の種類の一つで、地熱が溜まっている地下の層から約200℃から350℃の蒸気と熱水を取り出して、気水分離機を使い熱水と蒸気に分離し、分離した蒸気によりタービンを回転させて発電させる方式のことをいいます。
気水分離機で分離された熱水は、還元井と呼ばれる井戸を通して再び地下に戻されます。
この方法はシングルフラッシュ発電と呼ばれ、日本の地熱発電のほとんどはこのシングルフラッシュ方式が使われています。
シングルフラッシュ方式のほかには、ダブルフラッシュ方式ものがあります。
ダブルフラッシュ方式とは、気水分離機で分離させた蒸気と熱水のうちの熱水を、もう一度フラッシャーという低圧気水分離機を用いて熱水と蒸気に分離し、再度得られた蒸気を一度目の気水分離で得られた蒸気とともにタービンへ送り、残りの熱水を還元井に送り地中に返すという方法です。
バイナリー発電方式
(参考:地熱発電|再エネとは|なっとく!再生可能エネルギー)
バイナリー発電方式は、80℃~150℃の蒸気と熱水を利用して、沸点が低い媒体(蒸気となりタービンを回転させるもの)を沸騰させることにより発生する蒸気でタービンを回転させて発電を行う方法です。
この時には沸点が沸点が約-33℃のアンモニアや約36℃のペンタンをなどを媒体として使用します。基本的媒体に使用されるのは、沸点が100℃以下のものです。
この媒体は、沸騰し蒸気となりタービンを回転させた後、凝縮器により液化されて、再び発電に利用されます。
このように、直接地中の熱水を使用せず、地中の熱水を利用し媒体を蒸気化してタービンを回転させ発電する方法をバイナリー方式といいます。
現在の日本において新エネルギーとされている地熱発電の方法は、バイナリー方式です。
地熱発電のメリット
地熱発電には多くのメリットはありますが、ここではそのメリットのうち代表的なことを解説していきます。
- ①温暖化の原因になるCO2をほぼ排出しない
- ②純国産のエネルギーで発電できる
- ③天候によって発電量が左右されない
- ④資源が永久的にある
- ⑤発電後の熱水や蒸気も再利用可能
①温暖化の原因になるCO2をほぼ排出しない
地熱発電では、火力発電のように化石燃料を燃焼させることなく発電を行うため、CO2(二酸化炭素)をほぼ排出しないというメリットがあります。
kWhあたりのCO2排出量は石炭による火力発電で発電を行った場合は975g、石油による火力発電で発電を行った場合は742g、同じく再生可能エネルギーである太陽光発電を行った場合は53g、同じく再生可能エネルギーの風力発電を行った場合は29gであるのに対して、地熱発電の場合には15gと圧倒的に少なくなっています。
そのため、再生可能エネルギーを利用した発電方法の中でも群を抜いてCO2の発生量が少なくなっています。
地熱発電で発電を行うことで、よりCO2の発生を抑制したクリーンな電気を生み出すことが可能になります。
②純国産のエネルギーで発電できる
地熱発電は、国内に存在する地熱資源を利用して発電するため、エネルギーの自給自足が可能です。これにより、外国からのエネルギー依存度を低減し、エネルギー安全保障を強化することができます。
また、日本の火力発電は、主に化石燃料(石油、天然ガス、石炭)を使用しています。これらの燃料はほとんどが輸入に依存しており、国内での生産は限られています。そのため、火力発電に依存することで、エネルギー自給率が低下します。
火力発電は、温室効果ガスの排出が多く、気候変動に対する影響が大きいです。これにより、国際的な環境規制や政策に対する適応が求められ、長期的には持続可能なエネルギー供給が難しくなる可能性があります。
③天候によって発電量が左右されない
太陽光発電はパネルを敷き詰め太陽光をエネルギーとして発電し、風力発電では風の力をエネルギーとして利用し風車を回転させ発電します。
太陽光発電の場合は太陽光を利用して発電を行うため、夜は発電を行うことはできません。また曇りや雨が降っているときなどにはその発電効率は著しく低下するため、太陽光発電は天候の影響を受けやすいです。
また、風力発電においても風の強さは常に一定ではないため、風の強さにより発電効率に影響が出ます。
しかし、地熱発電は地中の熱を利用して発電を行うので、自然現象によって発電効率が左右されないというメリットがあります。
④資源が永久的にある
火力発電に用いる石油燃料には、埋蔵量に限りがあるため、それを使い果たしてしまうとそれ以上発電を行うことが不可能になります。
将来に渡り火力発電を続けようとする場合には、代替燃料や発電方法を開発する必要があります。
しかし地熱発電は、地中に存在するマグマが発する地熱を利用するため、資源が無くなるということは地球が存在する限りありません。
このように安定的かつ長期に渡って発電を続けられるという点も地熱発電のメリットです。
⑤発電後の熱水や蒸気も再利用可能
地熱発電は、井戸水や河川水等と熱交換して温水として利用する方法もあります。具体的には、発電後の熱水利用(ハウス栽培や養殖事業)といった、エネルギーの多段階利用が可能です。
このような再利用を行うことによって、地域と共生した開発ができます。地熱発電は、エネルギーをさまざまな方法で利用できるため、熱水利用などを行いたい方におすすめです。
地熱発電のデメリット・課題
前章では地熱発電のメリットを紹介しましたが、地熱発電にはデメリットもあります。ここではそのデメリットについて解説していきます。
- ①発電効率が他の発電方式に比べて低い
- ②発電所を作るための費用が高額
- ③立地条件が限定される
①発電効率が他の発電方式に比べて低い
地熱発電は、地中の熱を利用し蒸気を使ってタービンを回転させ発電機を動して発電します。
電気を作り出すしくみは、原子力発電や火力発電と全く同じですが、使用する水蒸気の温度が火力や原子力により生じさせるものよりも低温であるため発電効率が低く、その数値は約10%から20%に留まっています。
②発電所を作るための費用が高額
地熱発電所を作る際には、その前段階として地下1,000メートルから3,000メートルという深さを掘削し、その土地が地熱発電を行うのに向いているかどうかを調べる必要が出てきます。
この調査だけでも長い時間と莫大な費用が必要です。
さらに開発段階においても複数の井戸を掘削しなければならず、掘削に必要となる費用は一本につき数億円にも上ります。
この井戸の掘削費用は、地熱発電の開発費用のうち約30%を占めていて、コストが高くなるというデメリットがあります。
また地熱発電所は山の中に建設されることが多く、送電線の建設を行う必要もあり、これにもコストがかかります。
調査も含めると開発期間は10年かそれ以上にも及ぶため、時間と費用の面で大きな負担が生じてしまいます。
③立地条件が限定される
日本は火山帯国なので、多くの地域で大規模な地熱発電が可能だと思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。地熱発電を行うには、フラットな土地でなおかつ火山の近くであることが重要でしょう。
なぜなら、地熱発電を行うことが可能な場所が存在しても、その多くが国立公園となっていたり、温泉街として栄えていたりするため、大きな規模の地熱発電所を建設することができる場所が非常に少ないためです。
そういった土地は北海道や九州、東北地方などに限定されてしまうので、適している立地を探すのは難しいと言えます。
このような理由から、日本に大規模な地熱発電所を設置することは困難です。
地熱発電の普及率|日本の地熱発電の割合は?
まずは、現在日本で地熱発電がどの程度普及しているのか、最新のデータを確認して見ましょう。
日本のエネルギーの電源構成
2023年の発電電力量の電源別割合は以下の通りです。
日本国内のエネルギー電源構成を見てみると、石炭が28.2%・LNGが29.0%と同じぐらいの割合になっているのが分かります。
自然エネルギーの全発電電力量に占める割合は26.1%です。2014年は12.1%だったことを考えると普及が進んできていると言えるでしょう。
地熱発電の発電割合
地熱発電が占める発電割合の推移は次の通りです。
電源構成全体の約0.3%と最も低い割合となっており、割合はほとんど横ばいです。
ただし、発電量は少しずつではありますが増加しています。
年度 | 発電量(億kWh) |
2011 | 27 |
2012 | 26 |
2013 | 26 |
2014 | 26 |
2015 | 26 |
2016 | 25 |
2017 | 25 |
2018 | 25 |
2019 | 28 |
2020 | 30 |
2021 | 30 |
出典:2021年度エネルギー需給実績(確報)資源エネルギー庁
日本の地熱発電への取り組みと今後の展望
日本の地熱発電は、2030年度に現在の3倍の規模に拡大することを目標にしています。技術開発や新たな地域への導入によって、地熱発電の普及が期待されているのが特徴です。
この中でも、1次エネルギーの供給で再生可能エネルギーの比率を導入を拡大し、自然条件によらず安定的な運用が可能な地熱においては、総発電電力量の1.0-1.1%を目指しているのが特徴です。これは、現状の約3倍にあたり、さらなる地熱開発の促進が必要となるでしょう。
また、日本の地熱発電の取り組みでは、貯留層評価・管理技術の開発や地熱発電の開発リスクの低下や、リードタイムの短縮に向けた技術開発などが挙げられます。
ほかにも、適切な資源管理に向けた自治体支援や、地域と共生する地熱発電を目指した国民の地熱に対する理解を得られる動きのような取り組みも行っています。
日本の地熱発電の導入事例
日本国内の地熱発電所を紹介します。
八丁原(はっちょうばる)発電所
引用:JOGMEC地熱資源情報
所在地 | 大分県九重町 |
発電事業者 | 九州電力株式会社 |
認可出力 | 1号:55,000kW 2号:55,000kW/2,000kW |
運転開始 | 1977年6月24日(1号) |
詳細情報 | 公式サイト |
国内で最も出力規模が大きい地熱発電所です。1号機・2号機を合わせて11万kW以上の電気を発電可能です。年間の発電量は約8億7千万kWhにのぼり、石油20万リットルの発電量に相当します。
阿蘇くじゅう国立公園特別地域の一画にあり、周辺環境の保護も考慮して運転を行っています。
低温領域の蒸気・熱水での発電が可能な「バイナリー発電方式」を日本で初めて導入し、実証実験を経て実用化した実績を持っています。
「八丁原発電所展示館」というPR施設が隣接しているため、一般の観光客も見学することが可能です。
澄川(すみかわ)地熱発電所
引用:JOGMEC地熱資源情報
所在地 | 秋田県鹿角市 |
発電事業者 | 東北電力株式会社 |
蒸気熱水供給事業者 |
三菱マテリアル株式会社 |
認可出力 | 50,000kW |
運転開始 | 1995年3月2日 |
詳細情報 | 公式サイト |
「澄川地熱発電所」は標高1,062mの日本一高い場所にある地熱発電所です。
澄川地域は八幡平・焼山などの火山列の恩恵を受けた地域。蒸気は地下深部で約300度、発電所で使うときにも150度と高温で、1時間あたり約400トン噴出しています。
年間3億5千万kWの発電が想定される大規模な発電所でありながら、樹木の伐採を最小限にしたり、構内の緑化したりするなど、自然環境との調和にも配慮しています。
発電所に隣接して「澄川地熱発電所PR館」が設置されており、地熱発電のしくみや自然とエネルギーの関わりなどを学ぶことができます。
世界の地熱発電の導入事例
世界でも地熱発電は活用されています。地熱発電設備容量の世界ランキングは以下の通りです。
引用:JOGMEC地熱資源情報
日本は地熱資源量が世界3位と豊富な国ではありますが、地熱発電設備容量は他国に比べると低くなっていることがわかります。
地熱発電がさかんな国の導入事例を見ていきましょう。
ザ・ガイザーズ(アメリカ)
アメリカは地熱資源量・地熱発電設備容量ともに世界1位の地熱発電大国です。中でも最も盛んな地域が、カリフォルニア州のサンアンドレアス断層の近くにある「ザ・ガイザーズ」です。
多くの発電事業者と上記供給事業者が23基の発電所を運営しており、設備容量は1,548MWにのぼると言われています。
ムアララボ地熱発電所(インドネシア)
出典:富士電機
火山大国であるインドネシアは、地熱資源量・地熱発電設備容量ともに世界2位です。政策で地熱発電を推進していることもあり、2010年から2020年までの10年で発電設備容量が約2倍と急成長しています。
インドネシアの地熱開発にはプラント建設や蒸気タービンの供給などで日本企業が大きくかかわっており、その1例がスマトラ島西部の「ムアララボ地熱発電所」です。
2011年から開発を開始し、2019年に85MWの容量でフェーズ1を稼働。現在フェーズ2を開発中で、2025年には最大発電容量140MWの規模で稼働開始が予定されています。
まとめ
ここまで、地熱発電の基本から地熱発電の種類と、地熱発電のメリットとデメリットに至るまでを解説してきました。
地熱発電所を作るためには膨大な時間と莫大な費用が必要で、その発電効率もあまり高いとは言えません。しかし、今後さらに日本の技術の発展により国の電力を担う発電方法の一つになることも考えらえます。
次世代に良い地球環境を残すためにも、今後地熱発電のような再生可能エネルギーを利用した発電方法に注目して行きましょう!
この記事を書いた人
ikebukuro