カーボンクレジットとは?メリット・デメリットや日本の取り組み状況について解説!
- 公開日:2024.12.11
- 更新日:2024.12.11
地球温暖化対策として二酸化炭素などの排出量を削減することは、全世界にとって喫緊の課題だと考えられています。
しかし、企業によっては独力で二酸化炭素の排出を削減することが困難なケースもあります。そこで企業間で二酸化炭素などの排出量を売買できる仕組みが登場しました。これをカーボンクレジットといいます。
カーボンクレジットの具体的な仕組みや種類、カーボンオフセットや非化石証書との違いなどについて解説し、カーボンオフセットのメリット・デメリットと課題について説明します。
また、日本におけるカーボンクレジットに対する取り組み状況やカーボンクレジットの具体的な事例についても詳しく紹介します。カーボンクレジットは地球環境を保護する重要な施策です。
目次
カーボンクレジットとは
カーボンクレジット(carbon credit)とは、二酸化炭素などの温室効果ガスのベースライン(排出量の見通し)に対して、実際に排出した量が下回った際に、 ベースラインと実際の排出量の差をクレジットとして、認めたものを言います。
一般的には、クレジットはモニタリング(監視)、レポート(報告)、ベリフィケーション(検証)、というプロセスを経たうえで、温室効果ガスの排出削減量である「t-CO2」という単位で認証されて、排出量取引市場において売買(相殺)されます。グローバルな規模において「ネット・ゼロ※」運動に取り組もうとする動きもあるため、カーボンクレジットのマーケットは急激に拡大しています。
※ネット・ゼロ:空気中に排出される温室効果ガスと空気中から取り除かれる温室効果ガスが同じ量でバランスが取れている状況
カーボンクレジットの仕組み
カーボンクレジットの取引の仕組みには、「ベースライン&クレジット制度」と「キャップ&トレード制度」という2つの制度があります。両者とも類似している制度ではありますが、取引対象が違っている点には注意が必要です。
ベースライン&クレジット制度 | キャップ&トレード制度 | |
対象範囲 | 設備・施設 | 組織・施設 |
環境価値 | 追加削減分 | 排出枠からの削減分 |
活用用途 | 自主活用 規制対応 |
規制対応 |
価格決定 | 相対取引 | 市場価格 |
ベースライン&クレジット制度とは、温室効果ガスを削減した実績を取引商品と考える仕組みのことです。
具体的には、自分の会社の既存生産施設を高い省エネ性能を有する新たな設備に切り替えた場合に、省エネ性能が高いため生産活動において排出される温室効果ガスは以前の古い旧設備よりも抑えられていることが一般的です。
こうした「古い設備から排出される温室効果ガスの量-新たな新設から排出される温室効果ガスの量=差分」を温室効果ガスの削減量とする仕組みが「ベースライン&クレジット制度」です。
一方、キャップ&トレード制度とは、企業に対して、キャップ(温室効果ガスの額排出量の上限)を設定して、余剰の温室効果ガスの排出量や温室効果ガスの不足排出量をトレード(相殺)する仕組みのことです。
つまり、ベースライン&クレジット制度ではベースラインが設定されるのに対して、キャップ&トレード制度ではキャップが設定される点が大きく異なります。
カーボンクレジットの種類
カーボンクレジットの種類には大きく国連・政府主導のものと民間主導のものに大別できます。国連・政府主導のカーボンクレジットは、国連主導のカーボンクレジット、政府主導の二国間カーボンクレジット、政府主導の国内カーボンクレジットに分かれます。
種類 | 特徴 | 例 |
国連主導 | 京都議定書の目標達成や、 先進国同士、途上国と先進国間 で行われる取引に活用 |
京都メカニズムクレジット 共同実施(JI) クリーン開発メカニズム(CDM) グリーン投資スキーム(GIS) |
二国間 | 日本と相手国で交渉して取引 | JCM |
国内制度 | 国内の企業や自治体間で取引 | J-クレジット |
国連主導のカーボンクレジット
国連主導のカーボンクレジットとは、例えば、「京都メカニズムクレジット」を挙げることができます。京都メカニズムクレジットとは、他の国における温室効果ガス排出の削減量をクレジットとして購入することで、自国の議定書に定めた温室効果ガス削減量の目標値として含めることが可能なプログラムをいいます。
次に、二国間カーボンクレジットとしては「JCM」を挙げることができます。JCMとは、先進国と途上国が共同して温室効果ガスの排出量を削減できる制度です。具体的には、先進国は途上国に対して、低炭素に関する技術や製品などを提供します。そのうえで、実際に削減することができた温室効果ガスの排出量をカーボンクレジットとして、当事者(二国)の間で分け合うのです。
政府主導の国内カーボンクレジット
政府主導の国内カーボンクレジットとしては、「Jクレジット」を挙げることができます。Jクレジットとは、日本国内の企業や自治体による再生可能エネルギーや省エネルギー設備の導入による温室効果ガスの排出削減量や森林経営や植林活動などによる二酸化炭素などの吸収量をクレジットとして国が認証したうえで、国内において取引する制度を言います。
民間主導のカーボンクレジット
民間主導のカーボンクレジットとは、国連や政府が主体になるのではなく、NGO、民間企業、団体、個人民間、が主体となりクレジットを発行する制度のことです。ボランタリークレジットとも呼ばれています。
具体的には、世界で最も取引量が多いVCS(Verified Carbon Standard)や、プロジェクトの質の高さに関する認証も行っているGold Standardなどの制度が、民間主導のカーボンクレジットとして存在感を示しています。
カーボンクレジットとカーボンオフセットの違い
出典:カーボン・オフセットについて|春日井市公式ホームページ
カーボンクレジットと似ている言葉に「カーボンオフセット」というものがあります。カーボンクレジットが温室効果ガスの削減量を数値化したものであるのに対して、カーボンオフセットは自ら排出した温室効果ガスをクレジットを購入することでオフセット(相殺)することをいいます。
カーボンクレジットもカーボンオフセットも温室効果ガスの排出量削減に関する用語ではありますが、上述したように意味が異なっています。
カーボンクレジットと非化石証書の違い
カーボンクレジットも非化石証書も温室効果ガスの排出量削減に資する仕組みではありますが、いくつか異なる点があります。カーボンクレジットは主に企業間で売買されていますが、非化石証書とは再生可能エネルギーの電気を利用した場合に発行される証書のことで、電力会社が購入するものです。
また、非化石証書は、再生可能エネルギーの電気を利用した場合に発行されるので、カーボンクレジットよりも取得しやすいというメリットがありますが、一方で非化石証書はカーボンクレジットよりも排出削減量が少ないというデメリットがあります。
カーボンクレジットを購入するメリット
カーボンクレジットを購入するメリットとしては、以下のようなものを挙げることができます。
- カーボンクレジットの売却益を得ることができる
- 温室効果ガス削減への取り組みを社会にアピールできる
- 温室効果ガス排出規制に対応できる
- カーボンニュートラル達成に貢献できる
1.カーボンクレジットの売却益を得ることができる
カーボンクレジットは、他社に売却することによって利益を得ることが可能です。
こうした売却益を利用して、既存の設備投資などに関する費用の回収に充当したり、追加的な温室効果ガスの排出量削減や吸収量増加を目的として新たな投資を実施することもできます。
2.温室効果ガス削減への取り組みを社会にアピールできる
カーボンクレジットを利用することにより、地球温暖化などの気候変動対策に対してアグレッシブな取り組みを実行している企業であることを内外のステークホルダーに対してアピールできます。
最近は、環境関連のファイナンスも大きく伸びており、カーボンクレジットのための温室効果ガス削減事業の資金調達(サステナブルファイナンスやグリーンファイナンス)も可能になっています。
※サステナブルファイナンス:持続可能な社会を構築するためのファイナンスで、持続可能な社会のために資するビジネスが資金を調達するための仕組み
※グリーンファイナンス:グリーンプロジェクト(環境問題の解決に取り組むようなビジネス)に特化した資金調達の仕組み
温室効果ガス排出規制に対応できる
現在数多くの国・地域で温室効果ガス排出規制が強化されており、各地域で制定されている排出量の上限を超えた場合には罰金などの罰則が課せられます。
しかし、カーボンクレジットを購入・利用することで温室効果ガス排出規制に対応できるのです。
カーボンニュートラル達成に貢献できる
カーボンクレジットの購入により、企業は自社のCO2・温室効果ガス排出量をオフセットできます。
運送業・エネルギー業・航空業などの温室効果ガス排出量を0にすることが困難な業種でも、カーボンクレジットを購入することでカーボンニュートラル達成に貢献できるようになります。
カーボンクレジットのデメリットと課題
カーボンクレジットのデメリットと課題は以下の通りです。
- カーボンクレジットの認知度が低い
- 市場の規模がまだ小さい
1.カーボンクレジットの認知度が低い
カーボンクレジットの取引量や参加者数は着実に増えてはいるものの、社会全体を見渡して見ると、依然として認知度は低い状態にあると言うことができるでしょう。
温室効果ガスの削減量や森林による二酸化炭素の吸収量を価値があるものとして認識することは、温室効果ガスの排出に対して社会全体が対応しなければならないコストであるという認識とセットになっているものと考えられます。
カーボンクレジットが多くの人々に認知されると共に、こうした新たな価値観も一般に理解・浸透されることが必要です。
2.市場の規模がまだ小さい
カーボンクレジットは、市場取引が開始されて間がない、クレジットの創出や認証に時間が必要、カーボンクレジットの創出量がまだ少ない、といった点から、まだ市場の規模が小さいというデメリットがあります。
将来的に市場の規模が拡大して、取引も活発になることで、上述した「低い認知度」という課題も同時に解決されると思われます。
カーボンクレジットの日本の取り組み現状・取引価格
出典:みずほ情報総研株式会社
我が国の現状の日本のカーボンクレジットは、2008年にスタートした「J-クレジット制度」が中心です。
J-クレジット制度とは、森林保護や再生可能エネルギーの導入といった、いろいろな方法によって温室効果ガスの排出量を削減した企業に対して、カーボンクレジットを認証・発行する制度を言います。
J-クレジットは、主に国内の企業・自治体や個人などから幅広く購入されていて、2022年は約1,800万トンのカーボンクレジットが売買されています。カーボンクレジットの取引価格は、温室効果ガスの排出削減量や取得方法などによって異なりますが、2022年には約5,000円/トンで取引されていました。
我が国のカーボンクレジット制度は、まだ発展途上にありますが、将来的には更に拡大していくことが予想されています。カーボンクレジットは、温室効果ガスの排出削減に貢献するのみならず、企業・国内の自治体や個人が、自身の環境に対する負荷を削減する意識を高めるための契機にもなっているのです。
カーボンクレジットの購入方法
J-クレジットの購入方法は以下の3つがあります。
J-クレジット・プロバイダーなどによる仲介
クレジットの仲介業者に依頼して、クレジットを購入する方法です。コンサルティングサービスを実施している業者もあるため、カーボンオフセットについて知識があまりないという方におすすめです。
クレジットの購入価格は仲介事業者によって異なります。
【相談・手数料無料!】クレジット仲介事業者ならOFFSEL(オフセル)がおすすめ!
OFFSELは、J-クレジットと非化石証書の調達代行サービスを行っています。
一般的な仲介業者では、最低購入量の単位が平均10 t-CO2~となっていますが、OFFSELでは1 t-CO2~と小さな単位から購入が可能で、予算の指定もありません。
t-CO2単価の設定も他社サービスより安くなっているため、できるだけ費用を抑えてカーボンオフセットに取り組みたいという中小企業に向いています。
手数料・相談料は無料ですので、まずは連絡してみるのもおすすめですよ。
「売り出しクレジット一覧」に掲載されているクレジットの購入
「売り出しクレジット一覧」とは、認証されたクレジットのうち、創出者が掲載希望しているものをまとめたものです。J-クレジット制度の公式サイトで確認できます。購入や相談は、直接クレジット保有者に連絡して行います。
ある程度J-クレジットやカーボンオフセットの知識があり、自ら交渉できるという方におすすめです。
J-クレジット制度事務局の入札販売で購入
J-クレジット制度事務局が実施する入札販売に参加して購入する方法です。入札は年に1~2回実施されます。落札価格を下回った場合には、購入できない場合があります。
こちらも、J-クレジットについてや入札についての知識が求められます。
カーボンクレジットの日本企業の取り組み事例
カーボンクレジットの日本企業の取り組み事例として、以下のようなものを挙げることができます。
- 株式会社安藤・間
- 第一生命保険株式会社
- 日本中央競馬会
1.株式会社安藤・間
建設会社の株式会社安藤・間においては、Jクレジット制度を活用して7トンにもなる温室効果ガスの削減実績を持つカーボンクレジットを購入しています。
また、このカーボンクレジットの購入先は段ボールを製造している企業であり、工場内に設置されているボイラー設備の更新により温室効果ガスの削減にも寄与しています。
参考:株式会社 安藤・間
2.第一生命保険株式会社
大手生命保険企業である第一生命保険株式会社は、住宅用太陽光発電を利用した二酸化炭素の排出削減実績を有するカーボンクレジットを4トン購入・活用して、温室効果ガスの削減活動に邁進しています。
参考:第一生命保険株式会社
3.日本中央競馬会
日本中央競馬会は、「グリーン電力証書の購入 一式」を一般競争入札に出し、2024年9月にエレビスタ株式会社がこちらを落札するという形で契約を締結しました。
グリーン電力証書は、再生可能エネルギーで得た電力の環境付加価値を取引できる証書にしたもので、国際的イニシアチブ(SBT・CDP・RE100)に準拠しています。
今回日本中央競馬会と契約したエレビスタ株式会社はOFFSELなどの環境価値プラットフォームを展開しており、今回の一般競争入札にも日本の法人のカーボンニュートラル達成を支援する目的で参加しました。
カーボンクレジットに関するよくある質問
カーボンクレジットに関するよくある質問とその回答は以下の通りです。
1.カーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出削減に効果的な仕組みですか?
カーボンクレジットは、温室効果ガスの排出削減に効果的な仕組みのひとつと言うことができます。
ただし、カーボンクレジットだけでは温室効果ガスの排出量の削減を達成することは困難です。各企業が自らの温室効果ガスの排出量を削減する努力を同時に実施する必要があると考えられます。
2.カーボンクレジットには個人でも参加できますか?
日本における「J−クレジット制度」は個人でも参加可能でクレジットを購入することができます。
しかし、非常に敷居が高い(取引単位が大き過ぎる)ため、個人でも気軽に参加できる制度の登場が期待されていました。
そこで、エネオスはガソリンや軽油を給油した個人客に対して、カーボンオフセット(カーボンクレジットの考え方を利用)のサービスを提供する実証を2023年2月から開始しています。
3.カーボンクレジットは市場で空売りすることは可能ですか?
現在はカーボン・クレジットの市場では空売りを規制していません。理論的には可能です。ただし、カーボンクレジット市場の取引は、売付数量と買付数量の相殺決済(セットオフ)ができないことに注意する必要があります。
加えて、決済日の前日(S-1日)の午前11時にはクレジットを東証のアカウントに移さなければならないため、カーボンクレジットの市場における取引や相対取引による今後のクレジットの受け取りを見越して行う空売りについては慎重に検討する必要があります。
まとめ
カーボンクレジットは世界的に大きな問題となっている温室効果ガスの排出量削減に資する仕組みです。クレジットの売却で利益を得たり、高い社会的評価を獲得できたりするメリットがある一方で、市場の小ささから使い勝手にはまだ課題が残っています。
ただし、将来的に地球環境保護の動きは強まることはあってもストップすることは考えにくいです。カーボンクレジットの仕組みを活用して、温室効果ガスの削減に努めると共に他の方法も併せて活用することが効果的と期待されています。
この記事を書いた人
ikebukuro