アンモニア燃料のメリット・デメリット、問題点とは?仕組みやコストについても解説
- 公開日:2024.12.27
- 更新日:2024.12.27
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アンモニア燃料は、発電時にCO2などの温室効果ガスを排出しないため、クリーンなエネルギーとして注目されています。
水素よりも運搬しやすく輸送のコストを抑えることができるのに加え、既存の火力発電所で発電できるのがメリットです。
しかし、アンモニアの燃焼時にNOx(窒素酸化物)が排出されることや、生成時にCO2が発生してしまうことなど、解決すべきデメリットもあります。
この記事では、アンモニア燃料の仕組み・コストや、世界・日本のアンモニア発電の取り組み状況などもあわせて解説します。
目次
アンモニア燃料とは
アンモニア発電とは、アンモニア燃料として使用する発電方法です。アンモニアを直接燃焼したり、アンモニアから水素を取り出して燃焼したりして使用します。
まずは、アンモニア発電の種類や仕組みをおさえておきましょう。
アンモニア発電の種類・仕組み
出典:電気事業連合会
アンモニア発電は火力発電の一種です。アンモニアを燃焼させて発生した熱エネルギーで発電機・タービンを回転させて電気を発生させます。
発電するときに温室効果を起こすガスを排出しないことで、エコロジーに則したクリーンな発電方式としてエネルギー業界の高評価を受け、その開発が活発になりました。
2015年のパリ協定で長期的なCO2削減目標が世界各国で設定されたことで、日本国内ではアンモニア発電の開発に取り組む企業が増えています。
アンモニアの混焼・専焼
アンモニア発電の種類を解説します。
混焼 | 専焼 | |
燃料 | アンモニア | アンモニア と石炭の混合 |
CO2排出量 | なし | あり (削減可能) |
アンモニア発電の種類は、混焼発電と専焼発電の2種類です。
混焼は、石炭火力発電で使用する燃料にアンモニアを混ぜる方式です。
燃焼時にCO2を出さないアンモニアと、燃焼時のCO2の排出量が他の発電用燃料よりも多い石炭を混ぜて燃焼させることにより、CO2排出量を減らしながら発電量を維持するのを目標にした発電方法で、混焼のパーセンテージによって発電コストが変動します。
専焼は、アンモニアだけを燃料にして発電する方法です。
これが実現すればCO2の排出を完全に防ぐことができるため、アンモニア専焼の技術開発が各企業で推進されています。
燃料電池
アンモニアを燃料とする燃料電池も、アンモニア専焼技術と共に実用化が望まれています。
通常の燃料電池は酸素と水素の化学反応で発生するエネルギーを電力にしますが、水素の貯蔵と運搬が難しいため、水素の代替品としてアンモニアが着目されました。
アンモニアの燃料電池が開発されれば、脱炭素社会の実現がさらに現実的になります。
2015年に京都大学・トクヤマ・豊田自動織機・日本触媒・ノリタケカンパニー・三井化学(五十音順)が、アンモニアを燃料とした固体酸化物形燃料電池による世界最大規模(200Wクラス)の発電を成し遂げました。
今後のさらなる技術の向上が期待されています。
アンモニア燃料・アンモニア発電のメリット
地球の環境を破壊しないクリーンな発電方法と期待されるアンモニア発電のメリットを紹介します。
アンモニア発電が世界中の期待を集めるに至った理由をチェックしてみましょう。
CO2を排出しない
アンモニア発電の最大のメリットと評価されているのは、発電時にCO2の排出がないことです。
火力発電の最大のデメリットは、CO2を排出し、地球の気温を上昇させると共に自然を破壊することでした。
アンモニア発電はそのデメリットを排除した発電方法なので、今後混焼ではなく専焼で発電できるようになれば「安全で安価な発電方法としてエネルギー業界に革命を起こす」と予想されています。
水素よりも安全に運搬できる
アンモニアの運搬が水素よりも簡単かつ安全という点も大きなメリットです。
脱炭素社会を目標に掲げたとき、最初に研究されていたのは水素発電でした。
しかし、水素は体積が大きいので、運搬の難度が高いです。また、液化するためにマイナス200度以下に保たなければならないので、運搬のコストがかかります。
その障害を取り除くために研究され始めたのがアンモニアでした。
アンモニアの体積も水素同様に大きいのですが、液化しやすいので、運搬と貯蔵が水素と比べると非常に易しいのです。
発電コストが安い
他の発電方法に比べて発電コストが安いという点も、アンモニア発電のメリットです。
石炭火力発電に混焼する場合も、アンモニアのみで混焼する場合も、従来の発電方法より発電コストが大きく下がります。
よく比較される水素発電の4分の1のコストで発電できるとあり、エネルギー業界の熱い視線を集めています。
運搬と貯蔵のコストが水素ほどかからないのも大きなポイントです。
アンモニア発電と水素発電の発電コストの違いは、後の章で解説します。
既存の設備を利用して発電ができる
新しく開発される発電方法というと「そのために新たに設備投資をする」という課題が生じます。
しかし、アンモニア発電にその心配は要りません。既存の設備を使って発電できるからです。
アンモニアを石炭火力発電で混焼して発電するときに必要なのは数種類の機器の変更だけで、従来の火力発電設備で発電できます。
設備投資費用がかからない上に、現在の火力発電所を廃炉しなくてよいというメリットもアンモニア発電開発が推し進められる理由の1つです。
アンモニア燃料・アンモニア発電のデメリット
「メリットが多い」と評判のアンモニア発電にもいくつかのデメリットがあります。
アンモニア発電を行うに当たって対策するべき問題点・課題を見てみましょう。
- 燃焼時にNOx(窒素酸化物)を排出する
- 製造時にCO2を排出する
- 国内で製造設備が十分に整っていない
燃焼時にNOx(窒素酸化物)を排出する
アンモニア発電の代表的なデメリットは、窒素を含んでいるので燃焼するときにNOx(窒素酸化物)が排出されることです。
アンモニア発電はCO2の排出がないことで歓迎されていますが、NOxも地球環境の破壊を破壊します。NOxは酸性雨の原因になるからです。
地球に優しいクリーンエネルギーとしてアンモニア発電を大々的に推進するときには、NOx排出問題をクリアしなければなりません。
製造時にCO2を排出する
アンモニア発電は発電時にCO2を排出しないのですが、製造時にCO2を排出することが問題視されています。
アンモニアは、石炭・天然ガスなどの化石燃料を用いて製造する過程でCO2を排出します。
水素と窒素を触媒にして高温・高圧下で反応させるハーバーボッシュ法で製造するときにもCO2が発生するので、この問題も解決する必要があります。
これについては、発生したCO2の再利用や植林などで相殺をするなどの対応策が提案されています。
国内で製造設備が十分に整っていない
アンモニアの製造設備が日本国内で十分なほど整備されていないこともデメリットです。
現在生産されているアンモニアの大半の用途は肥料の原料などで、生産した量のほとんどは生産国で使われているので、アンモニア発電に十分な量を獲得するのが難しい状況です。
アンモニア発電を国内のメイン発電方法として確立するには、アンモニアの調達先の確保や、アンモニアの原料種を安定して調達する方法を考慮するといった対策を整えることが求められています。
アンモニア発電と水素発電の発電コストを比較
アンモニア発電と水素発電の発電コストを比べてみましょう。
アンモニア発電は2018年時点で試算したもので、水素発電は2020年時点で試算したものです。
アンモニア発電 | 水素発電 | |
製造 | 海外水素製造 (ECR用途:天然ガス+CO2販売) 11.5円/Nm3(20ドル/トン) |
海外水素製造 (EOR用途:天然ガス+CO2販売) 11.5円/Nm3(20ドル/トン) |
海外アンモニア製造 4.3円/Nm3(76ドル/トン) |
||
輸送 | アンモニア輸入 (積荷・海上輸送) 2.3円/Nm3(40ドル/トン) |
水素輸入 (ローリー輸送・液化・積荷・海上輸送) 162円/Nm3(*1) |
発電 | アンモニア専焼設備:46万円/kW アンモニア混焼設備:29万円/kW |
水素発電機 7万~9万円/kW(*2) |
発電
コスト |
専焼:23.5円/kWh 20%混焼:12.9円/kWh |
専焼:97.35円/kWh(*3) 10%混焼:20.9円/kWh(*3) |
*1:事業者のヒアリングから試算 *2:富士経済「2020年版水素利用市場の将来展望」水素ガスタービン発電 *3:発電コスト検証WGから試算 |
アンモニア発電の発電コストは、水素発電のコストと比べてかなり低いです。
現在推進されているのは、石炭火力とアンモニアの混焼の実証実験です。
今後、混焼率を下げる技術が向上することでアンモニア専焼で発電できるようになれば、アンモニア発電の発電コストは更に低くなります。
アンモニア発電の今後の展望
日本では、国や企業がアンモニア発電の技術開発を進めています。今後も、アンモニア発電の実用化が促進され、その割合が増える見通しです。
日本政府は、2030年にはアンモニア発電を電源構成の1%に、2050年には10%にすると発表しました。すでに、JERA碧南火力発電所におけるアンモニア混焼実証試験では、NOxを抑制した混焼の基礎技術は確立したとしています。
しかし、これを実用化するには、アンモニアの量が不足しています。アンモニア製造コストの削減や、サプライチェーンの構築・強化が必要です。
また、日本のアンモニア燃焼技術は、NOxの抑制やアンモニアの燃焼安定化において、優位性を保っています。
アンモニア発電が低炭素でクリーンなエネルギーであることを世界にPRし、その技術を他国に提供できるようになれば、国際的に地球温暖化対策が進むだけでなく、日本企業が経済的にメリットを得られるでしょう。
参考:我が国の燃料アンモニア導入・拡大に向けた取組について 2024年2月 資源エネルギー庁
アンモニア発電に関する企業の取り組み
アンモニア発電に関して、国内外の企業がどれほどの熱意で取り組んでいるのかを調査しました。
2023年5月に閉幕したG7広島サミットで判明した、アンモニア発電に対する世界・日本の取り組み状況を解説します。
世界でのアンモニア発電に関する取り組み状況
世界のアンモニア発電の取り組み状況は、日本ほど熱心とは言えません。
海外では脱炭素社会を目標にした上で、石炭火力を完全に撤廃しようとしています。
アンモニア発電は石炭火力との混焼によって発電するという性質から、アンモニア発電を推進することは石炭火力を全廃する妨げになると考えている国・企業が多い状況です。
G7広島サミットでの共同声明では「脱炭素目標をさらに厳しく改定する必要がある」と発表されましたが、日本は石炭火力発電を廃止する時期の明記に反対意見を唱え、世界各国との意識の違いが明確になりました。
日本でのアンモニア発電に関する取り組み状況
日本は、石炭火力との混焼でCO2排出を削減させる取り組みを中心にアンモニア発電を推進しています。
2030年にはアンモニア発電を電源構成の1%に、2050年には10%にするのを目標にしていることを明言しました。
その上で、この取組が数多くの石炭火力発電所を稼働しているアジア諸国のCO2排出量を減らすことに貢献すると表明しています。
しかし、石炭火力発電の廃止時期を提示しなかったのは日本のみでした。
現状では世界の協力を得られていませんが、日本でのアンモニア発電への取組を活性化し、クリーンエネルギーとして確立するなどの結果を次回のG7で出せれば、世界の協調と協力を得られる可能性があります。
アンモニア発電についてよくある質問
アンモニア発電について疑問が多い点についてまとめましたので、ぜひチェックしてみてください。
アンモニア発電の発電効率は高い?
アンモニア発電はまだ研究開発段階の発電方法であり、発電効率について公式なデータは見つけることができませんでした。
しかし、石炭火力発電にアンモニアを混焼することで発電する「アンモニア混焼火力発電」は、実験室レベルでは十分に高効率な発電が可能です。
今後は、アンモニアの混焼率を高め、最終的に100%アンモニア専焼を目指しています。
アンモニア発電に関わる企業は?
アンモニア発電の普及に取り組んでいる企業の例をいくつか紹介します。
発電会社である「JERA」(東京電力と中部電力の合弁会社)と重工業メーカーの「IHI」は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け、アンモニアの混焼技術の確立に向けた実証事業を進めています。
2023年度には碧南火力発電所4号機において、燃料アンモニアの大規模混焼(熱量比20%)を実施する計画です。
また、三菱重工業の子会社である「三菱パワー」は、2021年にアンモニアを単独で利用するガスタービンシステムの開発を開始しました。アンモニア100%の専焼システムとしては世界最大級であり、2025年以降の実用化を目指しています。
アンモニア発電に危険はない?
工場や発電所で扱う化学物質としては、特に危険性が高いというわけではありません。
アンモニアガスは人体に有害です。しかし、刺激臭があるため、人体に影響があるレベルの濃度になるまで気付かないという事態にはなりにくく、水によく溶けるため一度漏れたら際限なく広がるといったことはないと言えます。
また、アンモニア発電で燃焼時に有害な窒素酸化物(NOX)がでることが課題となっていましたが、研究開発が進み、窒素酸化物をほとんど出さない燃焼器が開発されています。
まとめ
「2023年のG7広島サミットで世界各国の支持を得られた」とは言えないアンモニア発電ですが、日本国内での熱意は高く、開発も進んでいます。
アンモニア発電にはメリットが多いので、アンモニア発電が抱えているいくつかの課題・デメリットを払拭できれば、次回のG7では他国の応援を得られるかもしれません。
日本国内のアンモニア発電の開発状況と躍進に期待大です。
この記事を書いた人
ikebukuro